第8話 OVERTIME WORK

今日は久久に栞が部屋に来る

珍しく2週間ほど来ていない


麻耶子は早めに仕事を終わらせて帰り支度をしていると


「麻耶子先生」濱田


濱田に呼び止められた


彼は今年から研修医として入ってきた

まだまだ考えが子供っぽくて未熟さが時折かわいくもあるのだが

それに振り回されることもあって

他の医師からは面倒に思われている


もちろん

斎藤先生からはいつも泣くほど叱られている


麻耶子は手を止めて濱田のほうを見た


「突然で申し訳ないんですけど

残業してもらえませんか?」濱田


濱田は両手には沢山の資料?


「どうした?」麻耶子


「来週のVIPのオペの事前会議のための資料なんですが

最近 忙しくって全く手をつけていなくて・・・・・・」濱田


「会議は明日よね?」麻耶子


麻耶子はチラッと時計を見るが

状況的にほおって置けづ手伝うことになった


通常なら

空いた時間や日々の残業などで数週間前から準備するはずの資料を

ゼロから作るということでなかなか終わる見込みは出ない


時間はどんどん過ぎていって

時計は20時を過ぎていた


「どうしよう・・・・・・終わらないね」麻耶子


「すみません」濱田


濱田の泣きそうな表情に小さく溜息をついて

麻耶子は携帯をチラリと見る

栞から着信とメール


「ちょっと電話してくる」麻耶子


麻耶子は携帯を持って更衣室へ


”プルルルルプルルルル”


2コールで電話がつながった


「もしもし・・・・・・」栞


あからさまに不機嫌な栞


「ごめん 残業してる」麻耶子


「”る”ってことは まだ途中って事?」栞


「ちょっと今日中に終わらせなくっちゃいけない資料作りがあって

・・・・・・ごめん」麻耶子


「腹減った」栞


「ごめんね・・・・・・

もう少しかかるしっていうか

いつ終わるか分からない

今日はもう帰ったほうがいいかも」麻耶子


「ずっと会えてないのに?」栞


「ごめん・・・・・・もう戻らなくっちゃ」麻耶子


麻耶子は拗ねる栞を置いてけぼりに電話を一方的に切り

また仕事に戻った


「ごめん・・・・・・さ また始めようか?」麻耶子


麻耶子が医局に戻ると

斎藤先生が不機嫌そうな顔で濱田の仕事を手伝っている


忘れ物を取りに戻った斎藤先生が

濱田の状況を見つけ

どうやら手伝うことになったらしい


もちろん濱田は半べそをかいている

しっかり叱られた後のようだ


斎藤先生は麻耶子を見て


「あっお疲れ様です

俺も手伝います」斎藤先生


「ありがとうございます」麻耶子


「さっと頑張りましょう!1」斎藤先生


そして三人がかりで無事に資料作りを終わらせた


先が全く読めなかったが

斎藤先生のおかげで思っていたより早く終わった

今は23時を過ぎたくらい


麻耶子は身支度をし席を立つ


「じゃ私はこれで!」麻耶子


すると斎藤先生が


「こんなに遅くなったんですから 

俺 家まで送ります」斎藤先生


「大丈夫です

私の家 ここから近いんで」麻耶子


「近いって言っても女性一人で帰らせる時間じゃないし

何かあったら濱田の責任になるしな!」斎藤先生


「じゃ僕 送ります」濱田


斎藤先生は濱田をにらんだ

濱田は何かを読み取ったように急に慌てて


「あっ僕 用事があった!今日はありがとうございました

両先生方 さようなら」濱田


足早に去っていった

その素早さにあっけにとられる麻耶子


「っさ 行きましょうか?」斎藤先生


麻耶子はそれ以上断ることもできず

斎藤先生と帰ることに


斎藤先生の車は白いベンツ

黒いレザーシート

助手席のドアを開けエスコートする斎藤先生

麻耶子は小さく会釈して乗り込む


斎藤先生は運転席に入ると麻耶子のほうを見て微笑む

さっきまでとは違い朗らかな表情になる

麻耶子はまた小さく会釈する


病院から麻耶子の部屋は歩いて30分

車だと10分かからない

しかし斎藤先生はくるりと大きく回って帰る


「あの・・・・・・場所 分かり辛かったですか?」麻耶子


斎藤先生はにこりと笑って


「いえ 住所で場所は何となく分かりました

でも せっかく麻耶子先生とこうして二人になれたから

少しでもって思って

すみません

早く帰りたかったですね?」斎藤先生


らしくない可愛い笑顔

麻耶子もついつい微笑む


斎藤先生の趣味の話や

最近の行きつけのBARの話しを聞きながらのドライブはそろそろ終わり

マンションの下に着く


「ありがとうございました」麻耶子


そう言って車を降りようとシートベルトを外すと

斎藤先生は麻耶子の右手をギュッと持って


「僕 けっこう本気です 麻耶子先生の事

医局長や渋澤先生にすすめられる前から

実は気になっていました」斎藤先生


「・・・・・・」麻耶子


麻耶子は真剣な斎藤先生の目を見る

何となく少し視線をずらしたら

マンションの入り口に・・・・・・栞?

コンビニの袋をぶら下げてどうやらこちらに気がついている


不思議そうな顔で見ている栞は

麻耶子と目が合うとコンビニの袋をその場にたたき付けマンションとは違うほうへ去っていった


麻耶子は慌てて斎藤先生の手を振りほどき車から降りる

斎藤先生はポカンとした表情で


「すみません

手なんか握ったりして・・・・・・驚きましたよね?」斎藤先生


麻耶子は栞が去っていったほうを見ながら


「斎藤先生

今日はありがとうございました

では!」麻耶子


口早に挨拶をして車のドアを閉めた


斎藤先生は少し落ち込んだような表情で会釈をして帰って行った


車が見えなくなるのを確認して

麻耶子は栞が消えていった先に走るが

既に姿は無い


マンションの前に戻り栞がたたき付けた袋を拾ってみると

ファッション誌とお弁当二つとストレートティー

きっと今まで待っていたのだろう

遅い麻耶子の分もお弁当を買ってきてくれたようだ


麻耶子は直ぐに電話をかける


”プルルルルプルルルルプルル”


三度目のコールの途中で切られた

もう一度電話をかける


”お客様の電話は・・・・・・”


きっと電源を切ったのだろう

麻耶子は動揺するがどうしようもなく

とりあえず部屋に帰った


テーブルには一杯にノートやテキストが開いてあった


きっと帰りを待つ間

明日の授業の予習をしていたのだろう


麻耶子は栞のカバンにそれらを入れた


”いつから見てたんだろう?

手を握られたところ見たのかな?


残業だって嘘をついて斎藤先生とデートしてたって

きっと勘違いしただろうな”


麻耶子は一晩中

それを考えていた


朝が来ても栞は帰ってこなかった


”カバンどうするんだろう?”


心配になって

もう一度電話をしたがやはり圏外


麻耶子はメールを送る


”昨日は遅くなってごめんね

同僚の先生に車で送ってもらったよ

何か誤解させたなら ごめんね

カバン忘れてるよ”


そのメールは直ぐには既読にはならなかった

その日は一日中

携帯を見ていたが

栞からの返信は来ることはなかった

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