サクラヒラヒラヒラトランペット

ただその時の私はまだ知らない。

トランペットをどれだけ練習してもあまり上達しなかったことや、じゃんけんに負けたゆーりのホルンがめきめき上達したこと。結局私が思い描いた空高らかにトランペットを歌う佐藤はな17歳はどこにもどこにもいなかったこと。じゃんけんをきっかけにして小学校仲良かったゆーりと疎遠になっていったこと。吹奏楽部の人数の多さに友情が薄れていったこと。

たくさんの絶望が待ってることを私はまだ知らない。

気がつくと満開の桜の中を走っている。息ががふさると花びらが唇からひらひら舞う。


私の人生は、そんなきらきらしていなかった。

漠然とした憧れを抱き続け、それか叶わない絶望にうちひしがれ続けて生きてきた。

例えば、高校生になればかわいくなることとか18歳までにはキスをしてるだろうとか大学生になれば友達に囲まれ彼氏が出来ることとか成人式になれば着物で飾る私は美しかろうとか就職すれば日々充実したOLになるだろうもかスベテスベテ根拠のない憧れだった。

手にはいると思ったのか、愚か者め。


口許からこぼれる花びらがしおれていくのが、わかる。

しょっぱいな。

満開の桜は気づけば、葉桜。

それでも目の前を見据えるとリノリウムの廊下が桜並木を続いてくから、だから。

私はそれでも走り続けないといけない。

気づくと自分はスーツを着ていて、リノリウムは毎日の中央線で山手線の環状路線図が窓一杯にあって新宿駅は迷宮ででも会社は息が妻って監獄でさくらがねあれ、視界も霞み、あ、立ちくらみ。

「はなちゃん待って!」

ひらり、舞う。

暗転。暗闇。夕日、校舎。友達。トランペット。嬉しい嬉しい絶望だぁ。

「あ、うん」

立ち止まり振り替えると私は、12歳。

「どうしたの?いきなり走り出して」

後ろからついてきた同級生に

「うん、ちょっと絶望して」

苦いな。

答える私の口許から、黒ずんだはなびらがひらり、零れ落ちた。

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