サクラヒラヒラトランペット

桜が咲いて咲いてひらり、とちりはじめる4月も後半に差す夕方の影が、続く校舎の廊下の窓にひんやり心地よい。

「やったあああっ!」

馴れないスカートの丈をひらめかせながら、音楽室から廊下へと続く階段を、駆ける。

待ってはなちゃん!

速いよはなちゃん!!

後ろから聴こえる友達の声が遠く感じるくらいの、感動。感動!

トランペット。

聞き覚えのある言葉。を、

「トランペットトランペットトランペット!」

小さい鋭い独り言で自分のモノにする。

ああ勝ったのだ!わたしは勝ったのだ!

12歳の小さな身体で喜びを全身で感じとる。

パート分け、じゃんけんに、勝ったのだ!

これは誰かから見れば小さなことかもしれないがわたしにとっては巨大なこと。

・・・あの憧れの、「トランペットをふく女子高生」に私もなれる。

きっと練習すれば私は音高らかに学校中を震わせられる。

そして言われるの1年後。トランペットのはな先輩かっこいいよね、ちゅーがくせいとは思えないよね、って!思われる!


「ふふっ」


初めて手に入れた小さな憧れを私は振り撒きながら階段をかけおり、追いかける友達尻目に完全下校時刻ーー中1仕様の午後5時に、私は、飛び乗る。

上ずる声を、弾かせる。

ひらっ!口許から桜のはなびらがヒラメク。

「ゆみちゃんもマナも高橋さんもはやくぅ!」

憧れに駆け出した12歳は、止まらない。

少女特有のプリズムの瞬間。

私の未来は明るいの、根拠のない断言をなぞるように、走る。

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