フィフティーンコスモファンファーレ

遠い住宅地の彼方から、聞こえるのはファンファーレ。

私が拳を握り前を見据えると、母もこちらをぎろりと睨みおたまでカンッ!!ダイニングテーブルを強く叩く、威嚇。

21時37分における8畳間の佐藤家のリビングは、リビングではない、戦場。

テーブルを挟んで、母とぎっちし睨み合う。

「××●●♯♯!!!」

母がなにか言葉を発射するので

「うるさい!私の好きにさせろ!!」

必死で私は迎撃。手元にあったリモコンを、母に向かって振り投げる。と。リモコンは、むーぅ、といった様子で空中にとどまる。

このリビングは、無重力。

「●※△××◻×♪!!!◻◻◻!!!」

母の言葉の銃撃は、止まらない。

おたまを突き投げるけれども、ゆったり、空中に、とど、まる、宇宙空間。

私はその銃撃を全身に浴びながらも

「私の人生は私の人生だ!!!」

はで叫び、テーブルを引っくり返す。と。テーブルは置かれた婦人雑誌、ティーン誌、週刊紙を、天井いっぱいに広げながら、空間漂う。コップには行った麦茶が、スローモーション、で、液体から固体へ。と。変化する。

「●△🔣※Ω℃↑◆〆@!!🔣@◆&[∮↑◆!!!」

対してテレビを蹴り飛ばす母親。静かに時を告げる置時計が、重みを、もって、空間に投げ出され、浮遊落下。

「うるさい!うるさいうるさいいいい!!」

絶叫に近い声で守備に回る。

なんとなく、分かる。

ああ劣勢だ。負けるんだ。15歳の私はいつも負けてた。

それでも言葉は、緩まない。

「〆◆∋℃◆🔣℃℃Ω∀ゝ〓!!!↑∝≠∴¶±∮:ゝ@±‰◆!!!!」

ダイニングテーブルの皿が、舞う。

「い゛い゛い゛い゛い゛い゛!!!」

絶叫は、悲鳴へと変わる、けれども、宇宙空間。だから、誰にも誰にも、届かない。


15歳の私の叫びは、どこにもどこにも、届かなかった。


「あ」

ふ。とした絶望にとらわれたのは一瞬。

「●△◻●△◻●、△◻●△◻!」

母親の言葉がなにかしら意味あるものとして耳に、届き

「●△◻●△◻●△◻、死ね」

と。最後だけは、やけに明確に聞こえた瞬間、反射神経的に絶望したことを、自覚する。

すべては、スロー、モー、ション。

やがて、母の言葉が包丁へと具現化し、空中に浮かび、私の胸を狙いを、確かに、定める。

鮮血、が、ゼラチン状に舞う。

しかし、痛くはない。痛くはない。

絶望もない。ない。

だって私は。

私、は。

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