スターライトシーソーシーソーシーソー
フルート先輩と、りょー先輩は非常にお似合いだった。美男美女だった。
共に性格も良い人達で仲も睦まじかった。
ただ私は2人を見ると胸が苦しくて、息もできなくなって、でも冷静になると普通で、といったように複雑な波長に凪いだ。
それは2人が他の卒業生と談笑し、証書持って部室に来たときまで延々と続いた。
だから、
「途中から先輩とうまく話せなくなったのは先輩のことが嫌いだからとかじゃないです」
途中からうまく話せなくなり、自然と2人は避け合うようになった。
「むしろお話したかったです」
それでも、大学で先輩のいるオーケストラ部に入ってしまったのは、中高続けたトランペットにすがる反面、どこかで先輩とまた嘗てのようにレッスンしてもらえないかとか話ができないかとか思う気持ちがあったからだろう。
「図々しい、ですけど」
大学に入った先輩は、フルート先輩とほどなく別れ、他の先輩や同級生、後輩と付き合ったりしていた。大学のオーケストラ部の部長兼学生指揮者の隣に寄り添う彼女は、時によってはオーケストラ部のヴァイオリン先輩だったりオーボエちゃんだったり、バイト先
のコンビニさんだったりした。
それらに私の胸のどこかはキリキリグルグルしたけれども、高校大学部長学生指揮者もろもろ一手に引き受ける先輩は眩しかった。
そしてそんな先輩が私を向いてくれるなんて、とても思えなかった。
無理矢理、諦めた。
「あのね、はな・・・」
恋に鬱を病み、表情に陰りを見せた美優の登場はちょうど良かった。
終始まともに話すタイミングなく、先輩は社会の海へと巣だって行った。
「うん、そうか」
ふとシーソーの先に目をやると、座っていたのは高校のブレザーではなくリクルートスーツ姿だった。背景には塵屑のような星空。
「でも・・・」
ヒューーバタンッ、シーソーに乗った先輩が着地する。
「佐藤はトランペットを練習しなきゃな」
同時に突然目の前に現れたトランペットを、私は躊躇いなく右手でつかむ。
ひんやりとした金属の感触が夢か現実か私を惑わせるけれども、「好きじゃない」と明言しなかった先輩を見て、ああ夢だと改めて認識する。
私の脳はいまだにその類の言葉を恐れている。
ぷわーーーっ。
星に向けて吹くとトランペットは、アホみたいな響きだった。
もう一回息を吸う。冷たさが肺に忍ぶ。
ブァーーーーーーーッ!!
その、夜空を震わす低い音は明らかにトロンボーンの音だった。芯のある、確かな音。
ふと気づくとシーソーには私一人。
いや、先輩が座っていたところをよく見ると、トラが寝ている。薄い黄色い毛並みの。
私は、絶対起こしてやろうと、そのトラへベルを向け、息を吸う。
ひんやりと、夜空が肺を満たした。
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