パラレルパラレルパラレルフラワーガーデン
二輪目。
ゲエムの中の私は自転車で、小さな画面いっぱいに自由に道路を駆け回る。
眼球を天井へ向ける。
大学は今の大学でも、就職先が第一希望ならどうだろう。
ハウスダストが目につく。
恐らく今のように毎日毎日が憂鬱ではない。「今の会社も人は悪くない」「憧れる先輩がいる」「お給料も他の職と比べればまぁ良い方」とか言い聞かせて自らの絶望を、温い食塩水のように、毎朝薄める必要もない。大変だけれども充実ある日々をとか無理矢理思う必要はない。なぜなら自然と沸き上がるからだ。そして10年20年の先の未来について、絶望することはない。不安に思うことはない。何故ならその会社に一生ついていけば怖いものなんてなにもない。守ってもらえる。
ギュルギュルギュルギュル!
私の右脇腹に恐ろしいスピードで何かが芽吹く、のを自覚する。
ギュパオオオン!!!
真紫の毒々しい花が咲く。しかし
「クキューッ!」
モンスターの育成に全く支障はない。
三輪目。
ゲエムの中の私は道端に昼夜構わず立っている青年に、話しかけている。
そもそも私がもっと勉強してもっと良い高校にいっていたらどうだったろう。
そうすれば、りょー先輩と出会わなかった。きっともっと素敵でかっこいい且つ私を見てくれる人がいたはず。
更にはもっと良い大学にいけた。
もっと良い会社シュルルルギュボンッ!!
真っ青な花が左太股に咲く。
モンスターの育成に全く支障はない。
四輪目。
ゲエムの私はコンテストに出場し優勝している。
いやそこじゃない。
あの時りょー先輩と付き合うことができたら。勇気をもって「すき」の二文字を口走っていたら。もっとあの時痩せてかわいくなってスカートも短くシュルルルギュルギュン!!
真っ黄色の花が咲く。
モンスターの育成に全く支障はない。
気づくと、私は花まみれになっていた。
もっと咲けもっと咲け。あの時もし、ああしてればと思えば思うほど、むせかえるような香りのなか花はどんどん咲いていく。
ゲエムの私は一生懸命四天王相手に戦う。
「キエーッ!」
「キュピーッ!」
「キューーーッ!!!」
今真出ぬ積み重ねてきた努力を胸に、モンスター達は健気に敵に立ち向かっていく。
あああの時。ああしていれば。
ギュルポンッ!赤紫。
いやその時こうしていれば。
ギュリュリュリュ!黒。
あああの時。
ああ。
ああ。
第一希望の私に近づいていたはずなのに。
今いる私はいるべき私ではない。
もっとどうにかなっていた筈。
ギュリュリュリュ!!!!
不意に、激痛。
ヒッ!!!声にならない悲鳴を噛み締める。
大きな音をたて、痛い痛い痛い痛い!!!ゲーム機がベットから落ちる。ギシッギシとベットが歪み痛い痛い痛い痛い!!!足をドタバダギシッ!!痛みが私を突き動かす痛い!!
突如花が締め付けてきた。
全身を縛り縛り縛り痛い!
ギュリュリュリュポンッ!
たちまち右肩に真っ白な花が咲き赤い口紅を塗った口が真ん中に生える。
「そんなパラレル、ゲエムよりはるかに非現実」
いやそんなことは
「そんな非現実に苦しむ暇があるのなら、今ある現実をいっぱい苦しめ、悲鳴をあげろ」
「ああっ・・・ウエッ!!」
でもそんな悲鳴上がらないよ苦しいよ!
息が!!
ギュリュリュリュバンッ!ポンッ!
花はますます咲き乱れる。一輪一輪が私の痛みになる。指ひとつ動かすだけで激痛。蔓が私を締め付ける。モンスターの育成に死傷が出る。
ギュリュリュリュ!
天井床天井ベッド床痛みで視線が目まぐるしく変わる痛い痛い痛い!!!
6畳間の自室でハウスダストを口いっぱいに吸い込みながら、私は私はこうやって死ぬのか!
今いる私は絶対第一希望の私ではない!!
悶絶、苦痛。
視界の隅に、ゲエムの画面。
小さな画面のなか努力を積み重ねた私はチャンピオンになっている。
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