パラレルパラレルフラワーガーデン

一輪目。

ベッドに寝そべりぼんやり眺めるのは携帯ゲーム機の小さな画面。そこには小さな球体に宿り、私を多種多様な鳴き声で慕う様々なモンスターが写し出されている。時間表示は15:49。

実家の6畳の自室はなだらかな春の日差しに、ハウスダストがふわふわ漂う。


ああこれは。この瞬間は。

第一希望の大学に、落ちて過ごした夢のような1カ月。


定期演奏会が終わると私は受験勉強をした。

学校が終われば塾も行き深夜に机に縛りつき寝るまも惜しんで一語一語英単語を脳みその隙間に敷き詰めていく。

本番は、散った。

理由は簡単だった。深夜に押し込む勉強が集中力を保った実りあるものではなく、机に向かうことに安心していた。気分がへこんだ時は母に当たった。

「はなは、頑張ってるから」

母は決まってそう笑った。

今思うと私は「受験生」を必死で演じていたにすぎないのかもしれない。


この失敗だけなら私はしっかり出来た筈だ。ただ、次々と第一志望に受かる身の回りの友達や、「好きだったあの先輩よりは」と上を志したにも関わらず入学する羽目になったりょー先輩と同じ大学は、私を揺らがせた。


努力しても私はだめなんだ。

そんな幼稚な言葉が私を揺らがせた。


「ピキュー!」

その分このモンスターが羨ましい。

相手のモンスターを倒せば明確に強くなっていくのだから。


ギュリュリュリュ!!ポンッ!!!


ベッドに寝転がる私の左足首に大きな大きな毒々しい赤い花の蕾ができる。

痛くはない。モンスターの育成に支障は生じない。

もし、あの時私が受かっていたらどうなっていただろう。

ゲエムの画面では小さい私の分身が、よくわからないセンターでモンスターの回復を待っている。


まず今よりずっといい友達に囲まれて、恋人もいて、トランペットは吹いているかもしれないけれどまずやってみたかったジャズトロンボーンやバンドのギターに手を出す。メイクも毎日しっかりして洋服もきちんと選んで着ていてバイトもしっかり続いてバイト先にも友達は多い。勉学も学びたかった学問だからやる気が断然違って毎回優秀。会社も今より偏差値いい学校なんだから希望の業種に受かっている。


ギュリュリュリュリュリュリュブブァァァァ!!!


花が咲く。のがわかる。

左足首にわずかに重みが伝わる。

蕾と同じ色。真っ赤な花。

でもモンスターの育成に全く支障はない。


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