九
宵闇は随分と経ち、夜は冷たさを失いつつあった。代わりとばかりに重苦しい空気が明けかけの天に広がり、身を潰されないようにするのがやっとだ。
ぼくは悲しくて仕方なかった。この身が張り裂けんばかりにずっと、胸が痛い。
「本当は・・・・・・違うんだ。ごめん・・・・・・ごめん。離れたくなんてないのに、でも離れないと」
ぼくは以前、神を殺している。それも〈父〉と呼んでいた、水生の前任の神を。いつの間にかいなくなったというより、ぼくの影響力に侵されて消えてしまった。多分、ぼくの前から消える頃には、神としての力はほぼ無くなっていたのだろう。両親は隠していたようだが、隠し事は出来るが嘘を付けない父に、その父を信仰している母だ。隠し通しきれる筈がない。
村人は誤解しているようだが、神の妻は一生独身を通さなければならない訳ではない。巫女は神と契れる。本来ならば見えることのない神と。巫女は神と比べ、その短い一生をただ神の為だけに捧げるのだ。
「父さん、何でぼくは生まれたんだろう。母さん、どうしてぼくは咎を背負っているんだろう。解らないよ・・・・・・解らない」
どことなく、空を見上げ呟く。今日だけでいくらの泪が流れたか分からない。もう、生きるのに疲れてしまった。 そんな気になった。
「もう、誰の手も届かない所に行ってしまおうかな」
笑いながらぼく自身、自暴自棄になっているのは承知していた。少し頭を冷やさなければならない。ぼんやりとした頭を抱え、よろよろと雨戸を開けて一睡もしていない躰を無理に動かした。外に広がっていたのは、白み、陽の光を待つばかりの天である。
日暮れに似た夜明けが、木々を青々と光らせる。瑞々しい葉と、朝露がきらきらと輝く。
残念ながらぼくの予感は的中しない。夜が明けても天は晴天が広がり、雲の切れ端一つ無い。
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