第2話 大地が燃えた日
故に立ち上がり 戦って栄誉を勝ちとるがよい
敵を征服し、王国の繁栄を楽しむがよい
わたしは既に彼らの死を決定したのだ
弓の名手よ ただ 戦う道具となるがよい
―――バガヴァッド・ギーター 11章
北海道襲撃さる―――。
空間のひずみを観測していた観測所からの情報を元に、米国とロシア艦隊を主力とする
絶対的とも言える防空能力と、いかなる波長帯においても高いステルス性を備えるパラレイドにとっては従来の遠距離攻撃は通用しない。だからこそ、機動歩兵。強襲兵器。浸透攻撃と機動防御の両立を可能とした
とはいえ、人類もいつまでもやられたままではなかった。大数量の敵に対し近接戦闘を挑みかかるばかりでは被害が増える一方だ。ならば飽和砲撃を浴びせればいい。あるいは、仮想敵のビームをかいくぐる手段を探せばいい。
パラレイドがビームを放てるようになる条件の一つである『射線が通る』条件を遅らせてかいくぐるべく超低空を舐めるように飛来した電磁投射砲弾数十発が、その大多数を迎撃されながらも、指定地点へ到達するや気化弾頭を炸裂させた。
気化爆弾により地表面に張り付いていた蜘蛛のような形状をしたパラレイドが数百単位で吹き飛ばされる。
ひし形を引き伸ばしたような形態の無人機が遥か上空を飛翔していた。非武装。旧式のジェットエンジンを搭載したそれは、一見して無害に見えた。パラレイドは、敵対的な脅威をなんらかの手段で測定している。武器を持っているもの。より、脅威となるものが狙われるというデータを下に、その航空機は飛んでいた。武器はなく、絶対元素Gx技術さえ使っていない。人さえ乗っていない。すべて枯れた技術で構築されていた。故に、いくら落とされようが痛くもかゆくもない。もはや空は無人の人工知性達のものであり―――かつてライト兄弟が夢見た時代は遠い過去のものとなっていた。皮肉にも侵略者の登場によって『最後の有人戦闘機』の登場は早まってしまった。
人工知性は自らに与えられた任務を遂行するべく、気化弾頭の炸裂の瞬間を見守っていた。機体を傾斜させると、一気に高度を下げていく。さらに遠く。円盤を背負った航空機がその様子を凍える電子の瞳で見守っていた。
気化弾頭効果あり。敵数――五万体。アイオーン級とアカモート級を主軸とした地獄の戦闘機械達だった。
電磁投射砲による気化弾頭の飽和攻撃にも限界がある。パラレイドの数が増えれば増えるほどに迎撃率が比例して上がっていく。数万の対空火器が並んでいる最中を飛翔できる弾頭が存在しなくなったのは、さほど遠い話ではなかった。
数万体という無尽蔵の物量。そして人類最大の誤算だったのは――。
無人機がその黒い無機質な瞳で敵を見つめていた。
見上げるような体躯はしかし18m程しかない。戦闘機の全長がいまや20mに迫ろうかという時代において、小さく感じられるだろう。事実ビルだったものは巨人の小ささをより強調するかのように、地面に横たわっていた。だが、その威圧感たるや尋常なものではなかった。ただいるだけで見るものを震撼させ、たじろがせるのだ。
白黒二色の人型。
特徴的な胸部のパネルが赤く輝いていた。
巨人は厳かに言ったのだろう。
我は魂の監視者。
我は月の支配者。
我は恵まれぬものに泉の水を与えるもの。
我は死の瞳を司るもの。
のちにセラフ級ゼラキエルと呼ばれるパラレイドが、北海道の土地に降臨したのだ。
生還者たちは後に語る。
天使が、地獄をもたらしにきたのだと。
ゼラキエルの胸部に輝きが収束していく。膨大な熱量が胸元に収束するにつれ、放熱によってビルが溶け始めた。表面から順を追い蝋燭が燃え尽きていくかのように、鉄骨までもがゆがみ、形状を失っていく。
そして破滅の瞬間が訪れた。
巨人が両腕を掲げるや、まるで神々しい輝きを宿す胸元のパネルを誇示するかのような素振りをとった。
次の瞬間、
巨人から放たれた破滅的な熱線が地殻をも蒸発させるや、岩石を吹き飛ばし、有象無象地上の構造物全てを粉砕しつつ、地平線の彼方に浮かんでいた米国とロシアの艦隊へと襲い掛かった。海軍が人類を主な脅威としていた時代の名残たるステルス性を感じさせる鋭角な船体を持つ数隻が巻き込まれ影もとどめなかった。マントルさえめくり上げられしまっていた。まるでモーゼの十戒がごとき現象が海に巻き起こっていた。海水が蒸発し、直撃を免れた数十隻を遥か数百m直下へと誘ったのだ。
北海道に配備された皇国陸軍兵士たちは空どころか地殻を貫通してなおも余りある大威力が、北海道という土地を切り裂いていくさまを見ていた。
『無人偵察機隊からの情報を各部隊に告げる―――』
『電波障害が発生してい 各隊は 』
『艦隊との連絡が取れない』
『所定の位置につき攻撃を開始しろ』
『何が起こっている』
『
動揺を隠せぬもの、任務を続行しようとするもの、恐慌状態に陥るものもいた。
セラフ級はもはや人類の手に負えないとされる存在だ。地形さえ変えてしまう大威力兵器をこともなげに振るう存在を前に、有効的な手段など存在しない。核兵器の集中運用のみが効果を発揮するという意見もある。だが、その勝利の果てに待っているのは人類のたそがれだ。
その数実に数万体という異常な物量を誇るパラレイドの群れに対し、星炎に搭乗した幼年兵部隊が迎撃を開始した。
『各隊所定の位置を守れ。防衛線αをやられたばあいはβへ後退せよ。時間を稼ぐ。
ずらりと並んだ師団規模の星炎と装輪戦車からなる部隊が、防衛陣地で構えていた。旧式化して長らくたつ戦闘車両とて、その主力戦車並みの砲をつるべ打ち出来る点においてPMRとは比べ物にならない火力を誇る。
地平線の彼方で爆発が上がり始めた。
隊を率いる男は、前面に展開した幼年兵部隊の様子を見つつ、己の駆る機体の中で生唾を飲んでいた。男が乗るは97式
『スターゲイザーより各隊連合艦隊とのデータリンクが不通。通信中継はスターゲイザーおよびアストロジストおよび、白神級二番艦“
『白神級
『三番艦、“
『第88師団展開完了。敵接近中。指令本部に通達。ワレ接敵し、交戦に入る』
『青森県区より入電。中継、統合本部。
『
状況は、進行していた。
詳細は伝えられていないが、米国による爆撃が実施されるらしいことを男は知っていた。パラレイド相手に爆撃は利かない。一部の超音速砲撃や実体弾をともなわない光学兵器ならまだしも、爆撃とはいったいどういうことなのか。詳細を伝えられていなかった男は、その砲撃が例のセラフ級を粉々にしてくれることを祈った。
セラフ級ゼラキエルは沈黙を守っていた。地殻ごと打ち抜き艦隊を壊滅させた後、放熱板を開いたままぴくりともしていなかった。皇国軍はこれを好機と考え、北海道に展開中の陸上戦力で攻め落とすつもりだった。
第一段階として――北海道に住んでいる住人を逃がす必要があった。事前に戦場になることがわかっているとはいえ、座標はあいまいだった。可能性からして青森や、樺太の可能性もあったのだ。完全に逃れるには日本という大地に住む人間を全員逃がす必要があったが、そんなことは不可能だった。
そして第二段階として、押し寄せるパラレイドを食い止める必要があった。米軍のとっておきの爆撃を浴びせるために、時間を稼ぐ必要があった。
第三段階。米軍の準備が整い次第、セラフ級パラレイドを破壊する。セラフ級さえいなければ――甚大な被害を被るだろうが、敵を全滅させることが出来る。
セラフ級との接近戦。それは死を意味する。圧倒的な装甲。火力。気候さえ変貌させる超兵器を前に、接近戦はもはや象に犬がけしかかるに等しい行為だ。仮に接近戦で攻め落とせるパイロットがいたとすれば――それはきっと人類の向こう側へ到達したといえるのだろう。
『氷蓮――――……せいぜい綺麗なあだ花を咲かせるとしようか』
指揮官たる男は故郷に残してきた妻のことを思った。遺書は残してきた。自分が死亡すれば届けられることだろう。
そして男は、群れとなって市街地を蹂躙する光景をサブモニタで見つめていた。市街地に気を取られている間に部隊を配置し、市街地ごと吹き飛ばす。住民が大勢犠牲になっていた。女もいれば子供いる。やむをえない犠牲として考えとしても、あまりに惨い話だった。
燃え盛る市街地。幹線道路上に、トルーパー・プリセットの星炎が並び、教本通りにシールドを構え、40mmカービンを構えている。
パラレイドの第一波が市街地を乗り越えて進撃を開始した。とたんに地面が炸裂し、足が止まる。事前に敷設されていた地雷が作動したのだ。重量によって作動する地雷は、たとえいかにステルス性が高かろうと関係なく相手の足を止めることができる。足を止めた尖兵たるアイオーン級パラレイドに対し、弾幕を持たせるため低間隔に設定された40mmが炸裂した。
前面のアイオーン級は四方八方から放たれる40mmHEIAPの弾幕によって、次々に崩れ落ちていく。
死骸を乗り越えて、アイオーン級およびアカモート級が距離をつめんとする。市街地のビルが崩落し、市民が押しつぶされる。その市民がいた地点さえ、星炎が担いだ76mm分隊支援火器が片っ端なぎ払っていた。
『各員接近戦はこらえろ。敵を近寄せるな!』
部隊を率いる男は無線に怒鳴ると、自らも長銃身の狙撃銃を構え、シールドを地面に突き刺し、その陰に隠れるように片膝をついた姿勢で攻撃を開始していた。
近接戦闘は、各員の技量に応じて攻撃能力が大きく上下する。しかし射撃は決められたとおりにすれば、一定の効果を発揮する。ここにいるのは新兵だ。一騎当千の戦士などいるはずがなく、よって射撃武器によって数を削る戦法以外にとりようがない。
『う、うわぁぁぁぁぁっ!? くるなぁぁっ!』
前面に展開した幼年兵が絶叫を上げた。40mmカービンを撃ちつくし、再装填しようとあせって、マガジンを取り落とす。次の瞬間アイオーン級が放ったビームが頭部を吹き飛ばしていた。
『助けて………ッ』
天に手を伸ばす、その手ごと数百ものビームが焼き尽くしていた。爆発さえ許されず蒸発した星炎の穴へ、別の新兵がスラスターを吹かし飛び込んだ。
一匹でも通すと悲惨なことになる。ビームによる長距離砲撃を、どこからでも繰り出せる機動戦車がいたとしよう。浸透を許せば補給線がずたずたにされるのだ。PMRの機動性を持って、防衛線に穴が開いたのであれば、即座にふさがねばならなかった。
『被弾 被弾しましたぁっ!?』
一機が片腕を吹き飛ばされ、恐慌状態でシールドを構え、後ずさる。次に胸部の|三次装甲表面が炸裂し、内部構造をさらけ出した。ビームが着弾し装甲表面が熱に耐え切れず炸裂したのだ。
アイオーン級のビームは一発の破壊力こそそう高くはないが―――それでも、旧来の
『ぐあ―――っ』
アイオーン級がアカモート級を守るようにして陣形を組んでいた。中央に位置する亀のような重厚な無人兵器が、白熱した奔流を放った。アカモート級。ビーム砲撃による支援を主とする兵器。着弾と同時にバリケードとして組んでいた建材が根こそぎ吹き飛び、前線に火柱が上がった。
アイオーン級の群れがバリケードを乗り越える。地雷が炸裂し、足が止まる。足の止まった固体をも乗り越えて、パラレイド達が押し寄せていった。一斉に、数百数千というマイクロミサイルが空中に放られた。空中でスラスタが数度点滅したかと思えば、緩やかに放物線を描き防衛陣地前面を爆破した。
爆発に少なくとも五機が飲み込まれた。かろうじて回避に成功した一機は、マイクロミサイルが空中でベーンを偏向して襲い掛かってくる様を見てしまった。咄嗟に両腕を前に張るも、装甲にミサイルが一斉に張り付く。起爆。
『やめっ! いやあああッ!?』
『こうなりゃ突っ込むしかないぞ!』
『バカか! やめろ持ち場を守れ!』
一度崩れた士気が戻る最善の策は一度戦場から離脱させることだが、逃げれば集中砲火を浴びることになる。逃げ場などなかった。
混乱を埋めるべく無人化された装輪戦車が砲撃を開始する。曲射で放たれる120mm弾が、アカモート級の数機を瞬く間に沈黙させた。次の瞬間アイオーン級が放ったビームが戦車を蒸発させた。
指揮官たる男は、氷蓮のシステム画面で友軍機が次々ベイルアウトし、あるいは、KIAしていくのを見て舌打ちをした。同時に狙撃銃で足を屈め砲撃姿勢をとっているアカモート級の胴体に大穴を穿ち黙らせる。速射。跳ね上がる銃身を押さえるため、マニュピレータで銃身上部をつかみ、撃ちまくる。
マイクロミサイルの反撃が降り注ぐ。地面に刺していたシールドが吹き飛んだ。黒煙をマニュピレータで払うと、操縦席内部で汗をぬぐう。
『支援火器持ち機、対地ロケット砲装備機、アカモート級を優先撃破!』
応答はなかったが、76mm砲を担いだ機体が一斉にアカモート級を狙い始めた。重厚な装甲を誇るアカモート級とて、威力と貫通性を追い求めた76mmの前にはただのでかい的だった。
対地ロケット砲を両肩に背負い、両腕に固定式の汎用機関砲を据え付けた通称『ファイア・サポート・プリセット』装備の星炎が、これでもかとロケットを撃ちまくり、両腕の大口径機関砲で辺りをなぎ払っていく。
高速の弾丸に対するは、無数のビームと、低速のマイクロミサイルだった。
『お母さん!!』
絶叫を上げ一機がビームに食われる。頭部がはじけ、腕が落ち、よろめいたところで胸元を蜂の巣にされ崩れ落ちる。遅れて座席が射出された。下半身もろともとかされぐったりとした様子の操縦者が斜め上に射出され、故障のためかパラシュートが開かずに地面に叩き潰された。赤い絨毯が広がるも、爆発で塗りつぶされる。
『やめ、やめてぇ……!』
一機はカービンを撃ちすぎて銃身が過熱し放熱に移ったのを故障と勘違いし、背中を向けて逃げ始めた。スラスターを吹かし、別の機体と正面からぶつかった。
『くそっどけっこのヤロウ!』
半狂乱になり別の機体――こちらも幼年兵にしがみつく一機。もみくちゃになりながらも起き上がろうとして―――ビームが至近距離に着弾。砂煙めがけ無数のミサイルが突き刺さった。爆発。
鉄と、血と、砂煙で満ちるかつての住宅街。それを乗り越えてやってくるイナゴの群れは大地を削り、次に命を削るため進撃してきていた。
『どけっ! これだからヒヨッ子どもは!』
次々に死んでいく幼年兵に見かねた正規軍人の数機が、死の最前線へとスラスターを吹かし突撃した。低く、地を舐めるような柔らかな滑空は歴戦の勇士だからこそできる熟練した操縦だった。
確かに操縦に関してはPMRは思考を読み取り動く関係上、熟練度により動きのよさが変わることはないのだろう。だが、これは殺し合いなのだ。興奮せず冷静に命令を遂行する能力は――厳しい訓練と実戦によってのみ培われるものだ。幼年兵はあまりに脆かった。
三機は星炎の頭部にシャークマウスのペイントを施していた。星のキルマークが数十単位で胸部パーツ上で光っていた。
ロングバレルの40mmカービンを装着した漆黒の星炎が突撃する。腰を落とし、ビーム砲撃をかいくぐった。カービンを連射。マガジンを銃を傾けた慣性で捨てると、足を止めていたアイオーン級めがけ突進した。ラジカルシリンダーの駆動音がエキゾーストノートにも似た
『うおおおっ……! 往生しろクソッタレが!』
『敵確認。接近してしとめろ!』
男が叫んだ。
応答あり。無線に冷静さを保った男と女の声が響いた。
『
『
黒煙を縫い二機の漆黒塗装の星炎が進み出た。スラスターを巧みに吹かし、残骸を蹴っ飛ばし空中に躍り出る。アカモート級の前方を交差しつつ、両側に抜けた。
遅れてアカモート級が内側から炸裂した。戦闘機で言うジザース機動にて接近。
『小僧共! 撃て!』
漆黒の機体がトレードマークの隊を率いる男が叫んだ。男は、二機の寮機が戻ろうとするさまに気をとられ足を止めたパラレイドを指差していた。
『母さんの敵ィィィッ!!』
『しねええええっ!』
男が叫ぶ。銃を撃つことに夢中になるあまり、前に出すぎた幼年兵の機体の腕を掴む。
『バカか! 足を止めるなと教本にあっただろうが! くそっ……こんなところで…………』
男が幼年兵の機体を放る。直後、漆黒の機体はホップアップして迫り来るマイクロミサイルに飲み込まれた。腕がはじけると地面を転がっていく。最後の足掻きとでも言うかのように指が痙攣していた。
『………そんな、守って……くれた?』
愕然とする少年の前で、漆黒の機体は火炎に飲まれていった。
幼年兵は正規兵の盾として使い捨てにされる。その常識を刷り込まれていたためだろうか。自分を守って盾になってくれたなど、想像することもできなかったのだろう。
だが無常にも無数のビームが彼の機体を地面に縫い付けていた。もがく暇などなかった。燃える。爆発し、パーツが四方八方に転がった。
爆発。怨嗟、恐怖、あらゆる感情が北の大地にまた一つ散った。
『………α防衛中の部隊に告ぐ。撤退。β地点へ引け。時間だ。よくやった』
戦線を任された男は、指揮官機使用の氷蓮の座席の上でため息を吐いた。消耗率が高すぎる。時計を見る。時刻1145。たった45分の戦闘で、この地点を守る兵士の10%が死亡していた。通常の軍隊であれば10%と言えば『壊滅』に等しい状況だった。悪いことに相手には降参が通用しない。協定もない。白旗も効果がない。死ぬまで戦うしかないのだ。
『俺たちが守った貴重な時間をアメリカさんはどう使うつもりなんだ?』
男は機体のセンサーを上に指向した。爆撃が始まるとすれば、もうなんらかの航空機が上空にいなければおかしい。あるいはミサイルが到達しているはずだった。というのに、氷蓮のセンサーは何も捕捉しなかった。
当たり前のことだろう。それは、通常の兵器では――恐らくはパラレイドのセンサーをもってしても捕捉できないであろう、衛星軌道上に存在したのだから。
コードネーム、
パラレイドがいなければ今頃人類は宇宙に進出していただろう。
円形の衛星兵器は格納していた棒状の物体を切り離すと、宇宙空間へと放った。反動を殺すために衛星後部のスラスタが瞬いた。
数にして数十はあろうかという金属製の棒が浮いていた。棒は等速直線運動で衛星から離れると、地球の重力に自由落下を開始した。後部の専用ノズルに青い火が灯り、加速を開始する。
核弾頭以上の貫通力を誇る質量兵器による爆撃。気化弾頭の集中運用にさえ耐えるセラフとて――ひとたまりもないだろう。有象無象が破壊される。地球の重力とは、そうした力を持つのだ。
作戦は成功していただろう。
敵が動きさえしなければ。
両腕を掲げた姿勢で静止していたセラフ級ゼラキエルの指が、ゆっくりと開かれた。
双眸が赤く輝いた。
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