インセンティブ① 【スピンオフ】

 明け方、物音で目が覚めたルカは時計を見て支度に手間取るアリスに声をかけた。


「もう出るの?5時だよ?」


「何か、朝早いんですよ。」


「どこまで行くの?」


「夜中にようやく場所が決まったみたいで、六本木で待ち合わせなんですけど、そこから車みたいです。」


 髪の毛を巻き込んでしまい、もたつくアリスの代わりにルカが首の後ろのリボンを結んだ。


「大学じゃないの?」


「えっと……時間なので、とりあえず行ってきます。」


「駅までタクシー使えば?送ろうか?」


「大丈夫。じゃ、すいませんけど、亜蘭、お願いしますね。」


「うん、いってらっしゃい。」


 アリスはルカにキスをして玄関で別れた。







「インセンティブ入ったから、何か欲しいものあったら出してって。」


 同僚の伝達内容にルカが反応した。


「電子レンジ買おうよ。みんな使うでしょ?」


「そういうものじゃなくて、機器類とかメンテとか備品とか……。」


「備品にすればいいんでしょ?」


 ルカは書類を数枚コピーして記入し始めた。


「電磁波発生装置?シリンジ廃棄時、カーボンロッドと加熱することで尖端をなくし、安全な廃棄に使用する……本当に使うの?」


「いや、弁当あっためるだけ。本当にやってもいいけど、どうせ産廃料金支払うなら電気代の無駄だよ。」


「恒温槽。100℃未満の精密な温度制御を必要としない温浴操作を迅速に行うために使用……。」


「電気湯沸かしポットがあればカップ麺食えるだろ?」


 調子に乗って書類を作るルカに乗っかる社員も現れた。


「俺、コーヒーメーカー欲しい。」


「おっけぇ。」


「自動ろ過抽出装置。高温のろ過抽出を自動で行うことにより操作リスクを軽減させ、操作手の安全性向上を図る……じゃあ、冷蔵庫は?」


「それこそ簡単。」


「保冷装置。電池、接着剤など、試薬類と保管を明確にわけることで操作の安全性と向上を図る……。」


 書き終えた紙を整え、円卓の中央に置くと、ルカが立ち上がって言った。


「問題は、これを誰が出しに行くかだけど……皆さん、ご起立願います。用意はいいですか?せーのっ!」



「「最初はグー!ジャンケンぽいっ!!」」






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