あなたの街の試験屋さん 【スピンオフ】
「気化器?」
「予算がないから、兎に角、安くあげたい。」
「水の1系統でいいの?」
「いや、模擬ガスで運転したいから5系統合流させて……。」
「それだけで100万はかかるよ。全部外注したら200万からじゃない?」
「そこを何とか。」
研究所で装置の組み上げ作業をしているミキの所にルカは御用聞きに来ていた。
「マスフローは負からない。筐体10万、温調ふたくちで6万、フィーダー15万、バルブが1個1万、プラス、マスフローだろうな。バラで買って組み立てる?」
「それでもいい。」
「なら、気化器プラス15万ってトコかな。ざっくり、150万は見といて。設計と発注はするよ。」
「助かる。」
「あっちの女子は何やってんの?」
実験棟の隅でもたついている女性を指差して尋ねるルカに、ミキが首を横に振ってルカに耳打ちした。
「首席!?」
ミキがシーと指を立てた。
「アルコールランプも消せないお姫様。教授がいたくお気に入りなんだと。でも、実験が全然ダメで博士も手を焼いてる。」
「ふーん、ちょっと挨拶行っとこうかな。」
「やめとけ、あれはヤバい。」
噂の彼女の悲鳴が実験棟に響き渡り、二人が駆け付けると、彼女の運転する装置の反応器が異常燃焼を起こし、炎があがっていた。
「バカ!止めろ!!」
ミキが装置上部の緊急停止ボタンを押すとガス供給が止まり、燃焼がおさまると、破裂音がした。
「ん?何か、ガラスが割れたような音がしたけど?」
「……シリンジフィーダー。シリンジが割れた。ストッパーもかけねぇの?お疲れさん。」
それだけ言うと、ミキは自分の装置へ戻って行った。
「えーと、誰さん?」
首から下げているIDカードには橘皐月と書かれていた。茫然と立ち尽くす彼女にルカは声をかけた。
「橘さん?大丈夫?まず、座ろうか。シーケンス制御?ちょっと見ていい?」
「はい……。」
「……プログラムに異常は無さそうだね。つーと、設定か……あ、ほら。マスフローの設定間違ってるよ。最大流量の設定が5ccになってる。このマスフロー、10リットルだよね。命令が5ccを越えてるから、酸素が全開の10リットル流れたわけ。酸素燃焼実験になっちゃった。」
「…………。」
「これ、下からの供給だし、炎は上にあがるから、緊急停止ボタンが装置の上ってやめた方がいいよね。まぁ、これは後で考えるとして……。」
ルカは研究ノートをパラパラめくって目的と予定操作を確認した。
「砂鉄か……。酸素燃焼やっちゃったら全部固まってるかもね。出せなかったらリアクター作り直しだ。石英でしょ?40万はしそうだね。予算、あとどのくらい残ってるの?」
「……60万円くらいです。」
「えー……とね、これはこれでもう、どうしようもないから、冷めるまで置いておこう。で、どうするかだけど、流動層使わないで指定条件下でどうなるかってんなら、俺出せる。
セットアップに10万円、1検体2万円、予定してる組合わせだと、全部で20万円くらいかな。このまま続けても何のデータも取れない可能性あるよね?そこに保険かけておこうと思うんだけど、どうかな?データ出ればそこまでは一応、書けるよね?」
「はい……。」
「で、一応頑張ってみるけど、リアクターがお釈迦だったら残りの40万使って、そこで終了。もし、無事だったら、もうちょっと相談させて欲しい。どう?」
「……有難うございます。」
「一応、担当してる先生にも聞いてみてね。見積り今出すから、ちょっと待って。」
「すいません、あの……。」
「ああ、ご挨拶が遅れまして……。」
ルカは名刺を手渡して笑顔を作った。
「地獄の沙汰も金次第。あなたの街の試験屋さん、水無月です。」
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