鏡の国のアリス ②AI


「アリスシステムは元々、人工知能の研究でした。AIは珍しいものではありません。こんにち、システムに応じて様々なAIが搭載されています。


ゲームのAIで言えば、大きく分けて3種類。メタAI、キャラクターAI、ナビゲーションAIです。メタAIは認識されにくいですが、ゲーム全体をコントロールする役割を担っていて、例えば、ノーダメージで敵を倒していると、敵の攻撃力が最大になっていくというような、プレーヤーの実力を数値化して、難易度調整するようなAIです。」


 ルカがグラスを置いて言う。


「キャラクターAIはCPUとか、NPCとか言われてるヤツだろ?格闘ゲームの対戦相手、FPSの敵、味方メンバーとか……。」


「そうですね。プレーヤーの選択によって行動パターンを変化させるものもあります。」


「ナビゲーションAIは?」


 ミキが尋ねた。


「カーナビでルートを塗り潰すアレです。プレーヤーを追い掛けたり、移動範囲や行動範囲を示したり、弾道計算させたり……。ゲームAIの中でも古くから研究されているAIです。ただ、ゲームは速度が命なので、計算が正確でも進行がストップしてしまうようでは意味がないんです。」


「そんなトコ見てるから倒れるんだよ。」


 ルカが少し困ったような表情でアリスに言うが、アリスも困ったような笑みを浮かべながら説明を続けた。


「音声認識こそ入っていませんが、あらゆる物にAIは搭載されています。洗濯機、エアコン、電子レンジ、掃除機……もう、様々な物に活用されているんです。写真を勝手に整理してフォルダ分けするなんてのもAIですね。画像認識、動画認識等は著作権に関わる精査が出来たりします。」


「利権か!合点がいった!そういう保護も出来るわけだ。」


 ミキが納得の表情で手を打った。


「コピーか、加工か、オリジナルと比較、照合することで、使用料の請求や削除を可能にしているんです。」


「本来、そういう使い方するわけね。利権が絡みゃ資金集まりそうだよな。盲点だった。」


 ルカもようやく腑に落ちたような表情を浮かべた。


「という事を、つい考えてしまうんですけど、吐き出す所がないとメモリーを非常に消費してしまうんですね。海馬に落としこむまで少し時間がかかってしまいました。」


 ミキも話題を振った。


「チェスで人間に勝ったってニュースになったよね。」


「ディープブルーですね。あれもスパコンです。AIXにC言語で書かれています。1手に対して2億手位先読みします。」


「UNIX系か。アリスって結局、何?」


 ルカが尋ねる。


「人工知能です。スパコンで演算するのが仕事で、最近はAIに感情が処理できるかが問題になっていました。」


「出来るの?」


「私は、不可能ではないと考えました。当初は認識、意思決定、動作生成というフローの各セクションがメモリーと相互に通信しあいながらエフェクタに吐き出す。そういうイメージをしていました。簡単に生成するなら、認識と意思決定はIF文による条件式、動作生成はパラメーター変化でしょうか。」


「人間の知能自体が定義できない状態でそんな研究ばっかり先行させても構成のしようがないような気もするけど?」


 少し不満げに述べるルカにアリスは答えた。


「ANGELINAというAIは自分でゲームを設計します。フランスでは、人工表皮に静電式感覚センサーを付けて、触覚を再現したAIも存在します。そういった研究もしましたが、痛覚の再現が問題になりました。」


 ミキがアリスにノンアルコールのソルティライチを注ぎながら聞いた。


「触覚と痛覚って違うの?」


「局部麻酔を受けた人ならわかりますが、違います。麻酔で痛覚が麻痺しても、メスが当たっている、切っている感覚はあるんです。スパコンを乗せたまま可動性を確保することが難しかったので、脳をクラウド化したモバイルコンピューターのように、人の形状をしたモバイルAIを考えました。


人間社会は殆どが人の大きさや動作に合わせて設計されるので、人の生活に寄り添うAIとしては、人型の需要が高くなる事が見込まれます。運搬も軽量である方がコストパフォーマンスも良いですし、事故や転倒時の故障も被害が軽度で済んだり、既にある人用の道具が利用できたりと、利便性を考慮していくと、小柄で力のある女性がモデルにされます。


ただ、マシンである以上、メンテナンスが必要となるので、いつでも切ったり貼ったりができた方が結局便利なんです。それで、痛覚の再現は負荷も考えると、無理だろうという話になっていきました。」



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