鏡の国のアリス ①目覚め
周囲が息を飲む中、少女は目を覚ました。研究者の一人が声を掛ける。
「おはよう。君の名前は?」
「……アリス・リデル……。」
少女の返答に周囲は歓喜の声をあげた。少女はまだぼんやりしているような表情で周囲を見渡すと、一言、こう言った。
「……Luca.」
2016年10月10日 月曜日
ルカがキッチンでコーヒーリキュールを作っていると、鍵が刺さる音がして、玄関が開いた。わずかな隙間からアリスが顔だけ出した。
「お帰り。何やってんの?」
ルカはリキュールを口に含みながら、玄関を開けようと近づいた瞬間、勢いよくドアが開き、ミキがアリスを後ろから押した。膝上20センチはありそうな赤いチェックのプリーツスカート、ワイシャツにリボンタイ、紺のソックス、ローファーに身を包んだアリスは、スカートの丈を気にする素振りをしながら立っていた。
「じゃーん!あっちゃん、女子高生バージョン!」
ミキが満足気に笑うと、ルカが口に含んだリキュールをシンクに吹き出した。
「好きだろ?折角なんだから、満喫しないと。今しかないんだし。」
「また変な事吹き込んで……高校生じゃねぇし。」
「大丈夫!一応、下にもう一枚履かせといたから!」
そう言うとミキは、アリスのスカートをめくって見せた。
「そういう問題じゃねぇ!」
ヘンリーが報告書に目を通しながら口を開いた。
「ホワイトクイーンの生存時間は72時間か……。」
「重大な置き土産を仕掛けていきましたけどね。世界中のネットワーク上にある全てのプログラムを止めると予告しました。」
「実際にその日が来るかを黙って見ているわけにもいかない。レッドクイーンに解かせようとした結果がこれか。これが出来れば苦労は無かったが……。」
女性が淡々と報告を続けた。
「レジナルドが一時、保護と称して監禁した際、何度も強制終了をかけられたようで、起動が不安定です。恐らく、補助海馬のバードディスクが傷付いています。情緒も不安定で話が出来るような状態にありません。」
「レジナルドは?」
「クイーン達と意思の疎通が出来なかった事が原因とみられますが、レッドクイーンを監禁したまま施設に放火を図り、拘束しています。設計図等の詳細は焼失してしまいましたが、レッドクイーンは現在、我々の保護下にあります。」
ヘンリーは両手を組みながら大きくため息をついて言った。
「……Lucaか。」
「世界ランク1位になっちゃってるじゃん。世界大会の招待状来るよ、これ。」
「俺、もう無理。このアカウントでログイン出来ないわ。」
ルカとミキはFPSゲームのリザルトの話に興じていた。
「アリス、あれ出して。魚介と刺身の、オリーブオイルとレモンの何とか。あれ、うまい。」
「はい。ホースラディッシュとミョウガのソースもありますよ。醤油ベースの。」
「それでいい。あれ、何?」
「……カルパッチョとマリネのあいのこですかね。何か名前付けて下さい。」
アリスは葉野菜を手で砕いて皿に盛り付けると、漬け込んだ魚介類の屑を乗せ、自家製のドレッシングをかけて出した。ミキが口に入れて言う。
「あ、これうまい。丁度いいね。」
「お刺身の端っこが必ず出るので、スーパーにいつも頼んでるんです。」
客注と知らずに食べていたルカが尋ねる。
「いくら?」
「それで198円です。呑み過ぎないで下さいね。」
「おおっ、
ミキのおだてにルカは、まんざらでもない顔をした。
「味覚センサーも発達していけば、余所の店の解析合戦で味が向上していくだろうにね。」
「いちいち分析しないでしょ、出来たとしても。」
「手軽に調べられるようになったら、家庭でも使われるかも知れないよ。」
「アーティふぃしゃる、インテリジェンスだっけ?」
「あっちゃんはどう思う?」
ルカとミキはリキュール片手にムール貝のアヒージョをつまみながら、解析談義に移っていった。言い合いになると喧嘩に近いものの、二人の仲の良さにため息をつきながら、アリスも加わった。
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