後編 ①登りきれ!1


 7月22日 金曜日 午前4時


「起きて。朝飯。」


 ルカに起こされて少女は目を覚ました。


「寝不足には味噌汁。」


 少女は小さなガラステーブルに並べられた食事に手をつけようとするが、何処と無く気恥ずかしさを感じて食が進まなかった。フォークでちまちま食べる様子を見ていて、ルカは箸で魚の骨を外し、少女の口に突っ込んで笑いかけた。


 食事を終えると、洗面所に案内した。洗面台には新品の歯ブラシが何本もぶら下がっていてルカは一本外してアリスに手渡した。


「何で歯ブラシ一杯あるんですか?」


 と少女が尋ね、ルカが答えようとしたが、ちょっと考えて、


「教えない。」


 と笑った。それを見て少女は少しむっとした表情をしたが、ルカにはそれが嬉しそうだった。


 しばらくテレビのニュースを聞き流しながら、ダイニングでコーヒーを立ち飲みしていたが、時計が5時を回るのを見て、


「時間だ。」


 と、ルカが言った。


 玄関先でしばらく見つめ合うが、お互い、何も言わないまま時間だけが過ぎた。


「それじゃあ……。」


 と言いながらルカがドアを開けると、少女は下を向いて何も言わずに部屋を出た。


 ルカは扉を閉め、玄関脇の壁にもたれかかり、天井をぼんやり眺めながら、走り去る車の音を聞いていた。





 少女はルイスに指示を出した。


「寄りたい所があるの。お互いに夢見の悪い仕事・・・・・・・をしなくて済む妥協点について考えてみたんだけど、あなたも一緒に来てくれないかしら。」


 少女を乗せた車は成田へと向かった。






 午後2時


「これから二つのグループに分かれて貰います。ひとつ目のグループは筆記試験のあと、会社説明を行います。もうひとつのグループは直接、役員が面接します。」


 案内を聞いたルカがミキに聞いた。


「どうする?」


「どうせなら直接、話聞きたくない?じゃんけんで決める?」


 ミキの提案でじゃんけん任せにしたが、勝ったルカが面接に決めた。面接希望者は二人しか居なかった。


 ミキが周りを見渡して言った。


「本当にどうでもいい私服で来たの、俺らだけだな。」


「直接会えると分かってたら、俺だって考えたわ。」


「裏へまわりますので、こちらへどうぞ。」


 案内の女性に促され、4階裏口にまわった。


「こちらのエントリーシートにご記入お願いします。」


 出された紙に名前と連絡先を書かされ、提出すると、説明が始まった。


「ビルとビルの間に外階段が3列、60階まで続く外階段は1131段、普通にのぼって30分程度です。エレベーターは5階、10階、20階あがれるものが2基ずつ、合計6基あります。扉脇のパネルに問題が出題されますので、表示されてから15秒以内に回答してください。一度間違えた扉は開かないので、制限時間45分を過ぎるか、上にあがる通路が全て封鎖された時点で終了です。ゲストキーを配ります。」


「あ、僕、付き添いなんで、いいです。」


 ミキがキーの受け取りを拒否し、ルカが受け取った。


 案内の女性に促され、ルカがキーを通した。


「丸、バツ、三角、四角、丸、バツ、三角の次に来る図形はどれ?」


 ミキが読み上げて、ルカが答えた。


「四角」


 ミキがパネルのボタンを押して回答すると、開錠の電子音が鳴った。


「その調子で最上階を目指してください。携帯電話の持ち込みは自由です。各自、必要だと思うものはお持ち頂いて構いません。」


 テーブルの上には、チュッパチャップス、チョコレート、フリスク、シュガーレスガムが置いてあった。


「サンシャイン、耐震工事中って出てたけど、こういう工事だったとはね……。また、随分、心強いアイテムだなー。」


 と言いながら、ミキがフリスクとガムを取った。


 ルカがチュッパチャップスを口に放り込んで言った。


「嫌な予感しかしねぇ。」





「今回は二人組のエントリーがありました。」


 開始時間を過ぎて会場入りした少女に、女性がエントリーシートを手渡そうとしたが、少女は目を合わせずに押し退けた。


「最後の問題だけ私が出して良いかしら?」


「ご自由に。」


 少女は深いため息をつきながら操作盤に向かった。



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