第20話

 刀条の右足を追った視線の先で馬場先輩は、刀条の不意打ちを見事に受け止めていた。驚いた表情をしながらもがっしりとその手で刀条の足を掴んでいた。バランスを失った

 刀条はその場に尻餅をついてしまう。

「なんで⁉」

「残念だったな。女は黙って見ていろ。後で俺に蹴りかかって来たことをじっくり反省させてやる」

 吐き捨てるように言って馬場先輩は俺の方につかつかと歩み寄って来た。

 真っ直ぐに俺を見つめている。

 刀条は足がすくんでいるようで、尻餅をついたままへなへなと座り込んでいた。

 梅村を含む空手部員は、生気の無い目でじっと事の推移を見ていた。

「西寺、逃げて!敵いっこないよ!」

 座り込んだまま刀条が叫ぶ。

 知っている。そんなこと。

 でも、自分が一度関わってしまった出来事を放ったまま逃げられない。

 怪異だとか以前にそれをやったらおしまいだ。

 俺自身が亡くなってしまう。

 やっぱり俺は、自分の感情を切り捨てることが出来ないみたいだ。今まで散々人と関わらないようにしてきたのに、いざ一度関わると首を引っ込めるのでなく、突っ込もうとしてしまうのだから。

 ひたと俺は馬場の目を見据えた。

 初めて直視した馬場の目は赤く充血していた。

 全体が真っ赤というのでなく、蜘蛛の巣のように赤い血が張り巡らされていた。

 赤い目からは禍々しいものが発せられていた。

 直視するのを無意識的に避けてしまうほどに。

 ――ビクッ。

 目が疼いた。ビクッ、ビクッ。

 小刻みに震える目玉。

 それが何を指しているのかはわかっていた。

 もはや決定的だった。

 激しい後悔が襲ってきた。

 どうして気がつかなかったんだ。

 こんなにもこんなにも明らかじゃないか。

 俺のミスだ。助手失格だ。こんなんじゃ灰島に会わせる顔がない。

 くそ。

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