第19話
こうやって正面から見ると馬場先輩は、かなりがっちりとした体格をしていた。百九十センチはあろうかという身長、幅広の肩、厚い胸板。惚れ惚れするような体だった。
圧倒的な威圧感が、あった。
押さえつけられるような恐怖で、じっとしていると、どうにかなりそうだ。
「……ふざけるな」
俺はさながら虎に飛びかかる猫のように馬場先輩に再び殴りかかった。
闇雲に、無我夢中に怒りを籠めて拳を繰り出した。傍から見たら、さぞ不格好に映っただろう。型も流れも何もない、ど素人の喧法なのだから。
馬場先輩は、俺の必死の攻めを絶妙に受けた。
俺の拳が体に触れるか触れないかの間で、掌を差し出した。そして、僕の拳がのめり込む直前でさっと身を引いた。稽古でもつけられているかのようだった。
馬場先輩は、俺の攻めをいなしていた。あるいは、遊んでいた。
会話しながら俺の相手をする。
「お前は、どうして説教の邪魔をする?」
「あれのどこが説教だ!無抵抗な後輩をたかが部活をサボったぐらいで一方的に殴り続けることのどこが説教と言えるんだ!」
「悪いことをしたら、体を痛めつけて教えるしかない。俺だって、こんなこと、やりたくてやってるんじゃないんだ」
「やりたくない?嘘だろ!笑ってんじゃねぇかよ!教えるのにも、限度ってものがあるだろ!こんなあざができるまでやってたら、それは暴力だ」
「暴力だと?人聞きの悪い言葉だな。いいか、これは後輩指導だ。部外者は、さっさと出て行け!」
馬場先輩が初めて手を上げた。
「ぐはっ」
下腹部に重い衝撃。
逆の立場ならスカッとする程、綺麗にパンチが決まった。
俺は腹を抱えて後退る。隣りを見て、俺は驚愕した。
「馬場ぁ!」
叫び声と共に刀条が俺の横から飛び出したのだった。
一瞬で間合いを詰める。
絵に描いたような飛び蹴り。
その様を呆気に取られて俺は見ていた。
格好いい。
決まった、と俺は確信した。
だが、空手部主将の腕は並大抵じゃなかった。
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