第6話
俺は怪異としての人生を受け入れたが、両親のことだけが心残りだった。俺のことを心配して探しているんじゃないか、いつまでも帰ってこない息子の俺を待ち続けているんじゃないかって。
何か情報があるんじゃないかと思って新聞は欠かさず読んでいたけれど俺に関する記事は一つも見かけなかったし、インターネットで検索しても十七歳の子が行方不明になったなんて情報は全くなかった。
おかしいと思い、灰島に訊いてみたが、どうもその辺は管理局が対応しているらしい。俺のことについても、両親には何らかの説明がされているみたいだ。両親がそんな第三者の説明で納得し、俺を探さないなんてにわかには信じられなかったけど、現に俺が行方不明なんて記事は見たことがない。
俺の方から両親に会おうとはしなかった。大体、会ったところで何を話したらいいのかわからない。
そんなこんなで、俺は人魚の肉を食べたために、三年間高校二年生だ。方法は分からないが、管理局のおかげで俺は問題なく三年間、高校二年生を繰り返している。三年生になることも出来ずにずっと二年生なのは、俺の肉体年齢が十七歳で変わらないことに原因があるらしい。詳しくは教えてくれなかったけど俺はそんなものかと思って受け止めている。
けれど、ずっと十七歳であることはつらい。
同級生たちは当たり前のように年をとっていく。
本来なら俺は二十歳。大学生となって自由を謳歌しているか、社会人として働いている年齢だ。だけど俺にはそんな当たり前が許されない。
一年前、かつてクラスメイトだった男子が大学生の格好をしていたのを見かけたことがある。そいつはクラスでも俺に話しかけてくれた少数派の人間だった。そいつにはそいつのコミュニティーがあって俺と別段仲良くしてくれたのではなかったのだけど、俺はそいつに話しかけられるのが嬉しかった。
だからこそ、俺のことをまだ覚えていてくれるんじゃないかと思ってそいつに話しかけようと近づいた。けれど、それは叶わなかった。
俺がそいつのもとに辿り着く前に、どこからか一人の大学生風の男がそいつのもとに現れてしまったのだ。俺が話しかけるタイミングを失い、その場で突っ立っているとそいつとその男の会話が聞こえてきた。
「ねえねえ、あそこでお前のことずっと見たまま突っ立ってる男がいるんだけど、お前の知り合いかなんか?」
かつてのクラスメイトは俺をじっくり見て言った。
「いいや、見たことないな。知り合いでもなんでもないよ」
と。
その言葉を聞いた俺は脇目も振らず、その場から全速力で逃げ出した。悔しかったし、悲しかった。そして同時に、俺は悟った。
俺は普通の人間とはかけ離れ過ぎていると。
俺は間違いなく――化け物だと。
その後、どうやって家に帰ったのかわからない。気付いたら家の前まで来ていて、俺は家に入ると、すぐにベッドに倒れ込んだ。
化け物の俺は普通の人間であるクラスメイトや同級生と本当の意味で仲良くなんてなれない。俺はそう思って自分から周囲とはさらに距離を置くようになった。
本当はクラスメイト同士の他愛ない会話が羨ましかった。だけど、化け物という引け目を感じていた俺は遠巻きに見つめることしか出来なかった。
ここまでが俺の過去の話。
思春期をこじらせすぎて友達を作れなかった男の悲哀の話である。
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