第4話
駅に着くとさすがに多くの人がいた。
制服姿の高校生、スーツ姿の会社員、リュックを背負った大学生。ここまでの道で見かけた人の人数などあっという間に超えてしまう。
俺たちは、バス停前のベンチに腰掛け、駅から出てきた人々を観察し始めた。
駅に来るまでの間どこかに行っていたミミーは、いつの間にか合流していて、初めからいたかのように灰島の背中に乗っていた。ミミーは気持ちよさそうに何度も欠伸していた。俺にはどうして灰島がミミーに懐かれているのかわからない。
「――で、灰島。怪異は見えるか?」
「うーん。今日は少ないねえ。いても人に害を与える程のものなんて皆無だよ。そんな小さな怪異なら迂闊に狩ると世界のバランスが壊れかねないから狩れないし。まあ仕事はないよ。今のところ」
「そうか。平和なら結構だよ。俺も面倒なことをしなくて済む」
世の中に怪異というのは意外にも多くいるものだ。
そこらへんの人の背中や頭に乗っかっていたり、民家などにも棲んでいたりする。
それらを全部狩るなんてことは、数が多すぎてやっていられないし、灰島が言うように世界のバランスを崩すから、絶対にやらない。
俺たちが狩り、還すのは、あくまでも大きく成長し、人に害なす怪異のみだ。
「もし狩らなくちゃいけない怪異が現れたら、面倒なんて言わずに仕事してくれよ。人に声をかけるのは君の役割なんだから」
「はいはい」
俺の役割は人に仇なす怪異に憑かれた人間に声をかけて、灰島の許まで案内することだった。これが難しいのだ。
いきなり、あなた怪異に憑りつかれていますよなんて言ったら怪しい宗教の勧誘かと不審がられるだけだし、いいからついて来てよなんて言ったら、ナンパしているみたいだと思われる。時には通報されることもあった。ちなみにこれは俺の経験談だから事実だ。
悩み試行錯誤した結果、あなたに大事なお話があるんです、と言って灰島の許まで連れてきて、話があるのは俺ではありませんこの男です、と詐欺師のように告げるのが俺の王道パターンになっていた。
「でも、こうしてぼーっとしているのも暇だな」
「呆けっとしてないで目を凝らしてくれよ」
「うん。でも面倒なんだよな。灰島がいるから俺が探す必要なんてないし」
実際、来る人来る人一人一人を目で直接確認するという作業は面倒なものだった。何十分も同じ単純作業を繰り返しているだけなんだから、そりゃあ飽きる。
「人にばっか頼っていないで西寺君も探しなよ。僕はトイレに行ってくるから」
「ちぇっ。はいはい。いってらっしゃい」
ミミーを肩に乗っけたまま灰島はトイレに向かった。猫と一緒にトイレに入るなんて大丈夫なのか、と思いながら俺は灰島がトイレに入るのを見届けた。
再び駅の方に目を向けて、人々を、怪異を観察し始める。
――そう、俺には怪異が見える。
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