第6話 君の世界。君の名は。


「それじゃあ、最初にこの世界について教えていくわね。あなたの世界の話はあとででいいから」


「お願いします」


彼女ーーーセリカさんは僕の返事を聞くと、突然なにもない空間に手をかざした。

そして、なにかつぶやく。すると、小さな穴が出現した。


「私たちの世界には、『魔法』と『魔術』、そして『加護』という三種類の奇跡があるの。私がいましているこれは『空間の加護』。自分の認識できる、自分の知っている場所に小さなゲートを開くことができるの」


そういうと、穴に手を突っ込み中から一冊の本をとりだす


「今持ってきたこの本は本来なら私の実家の倉庫に眠っているものなの。距離はここから歩いて3か月くらいの場所だからかなり遠いわ。でも、『空間の加護』を持つ私なら手で持てる範囲のものは持ってくることができるわ」


一度言葉を切り、テーブルに本を置く。


「『加護』はいくつもの種類が存在するわ。でも、同じ加護を持つものはいないの。いわゆるオリジナルというものね。次に『魔法』だけど、これは魔術より更に上の軌跡とだけ覚えてくれればいいわ。使える人はほとんどいない古代技術だし。『魔術』は魔力のある人ならだれでも使うことができるわ。ここまで大丈夫?」


「大丈夫です、なんとかついていけてます。今の話を聞いてる感じだとセリカさんの加護はかなり貴重なものなんですね」


「まぁ、そうね。なんといってもオリジナルだからね。でも、加護を持っている人はギルドに強制的に加入させられるからあまりいいことばかりじゃないわ…」


あ、なにか非常に疲れた顔をしている。ギルドとやらに何か嫌な思い出でもあるのだろうか…


とりあえず今の三種類の奇跡とやらは心のメモ帳に記録しておこう。

加護>魔法>魔術の順番で使える人が限られてる感じかな?

加護はオリジナル。

魔法は古代技術。

魔術はオーソドックス。

こんな感じかな。


「次に『魔物』について。すべてがすべて敵というわけではないわ。ただ、その多くは人間に対し、非常に敵対的よ。見かけたらすぐに逃げて。」


「は、はい。」


「魔物についてはギルドが一番情報を知っているから近いうちに一度登録しとくのもいいかもね。あとは通貨とか国についても教えておきたいのだけど、大丈夫?」


「はい。大丈夫です。続けてください」


その後も、周りが暗くなりろうそくが必要になるころまで彼女の話は続いた。通貨のこと、国のこと、地域の話をする時は彼女はそれなりに大きな地図を取り出し説明してくれた。時間をかけて僕にこの世界のことを教えてくれた。

そのあとは同じように僕の世界。地球のことについて説明した。彼女は僕の言葉一つ一つに注目してメモを取っていた。そして、話を終えたころ…


「そういえばいつまでも君って呼ぶの不便というか失礼だよね」


突然のことだったので、面を食らってしまったがそうは言われても名前は思い出せない。


「失礼だなんて思ってないよ」


「わかってる。君は優しいわ…そうだ、仮だけど私があなたに名前をつけてもいいかしら?」


彼女の提案は不思議なものに感じた。だが、嫌な気にはならないしむしろ心が温かくなった気がする。正直、うれしい提案だった。


「お願いします。正直なところその提案はすごく嬉しい」


「私がいつまでも『君』と呼ぶのが嫌なだけよ。そうね…でも、いざ名前を考えるとなると悩むわね…」


そういってうーんうーんと悩みだす。あれでもないこれでもないかしらと悩んでくれている。その内容が自分の名前を考えてくれていると考えると妙な気恥ずかしさがある。


「…そうだ!ぴったりな名前を思いついたわ!!」


考えること五分ほどようやく彼女のなかで納得のいく名前が決まったらしい。


「教えてもらってもいい?」


「もちろん!あなたのために考えたの。受け取ってもらえるかしら」


すると、どこからかペンと紙を取り出しなにやら書き始めた。

そして。


「これがあなたの名前!!」


『ソータ』


少し文字がつぶれているが、日本語で書かれている。


「ソータ…」


「そう。あなたを見つけたのが草原だったから。『草原で見つけた』からソータ。どうかしら?気に入ってもらえた?」


不思議なことにソータと呼ばれたとき、その名前がすっと胸にしみこむような感覚になった。心に残るというか、温かくなるというか…その名前はとても暖かかった。


「…もちろん。ありがとう、セリカさん。大切にする」


「さん。なんていらないわ。セリカでいいわ。よろしくソータ」


本当に、彼女には助けられてばかりだ。ありがとう、セリカ。

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