Another View1話 セリカ
私の家は代々冒険者の一族だった。両親もそのまた両親も更にそのずっと先の先祖まで冒険者ばかり。
おかげで家には昔から色々な宝物があった。なかでも私が一番興味をひかれたのはある一冊の本だった。
本の名前は「異世界見聞録」。いまから数百年前に書かれた本らしい。特殊な魔法が掛けられており、風化も進んでいない。まぁ、それだけなら珍しいことではない。
私が惹かれたのはその内容だ。
異世界では一日中光が消えないらしい。鉄の馬車なるものが無数に走っているらしい。食べ物が簡単に手に入るらしい。そして、なにより危険が少なく、この世界における最大の危険である『魔物』がいないらしい。
私の家系は冒険者という危険な職業が故に、常に死と隣り合わせである。実際私の両親も私が幼いころの冒険で残酷な最期を魔物に与えられている。
私は冒険者になりたい。だが、それ以上に私は冒険が怖い。だから、私にとっての冒険とは『異世界』に思いをはせることだった。
その日までは。
ーーー
その日は『無限の草原』と呼ばれるダンジョンに来ていた。自宅からも近くここの草はサラダにすると大変おいしい。なので、一週間に一度入り口付近を探索し、食料を確保していた。
『無限の草原』。危険度E-からSSS+++の超難関ダンジョンだ。入り口から1kmほどの場所まではE-の難易度。だが、それ以降はSSS以上だ。数百年ほど前から王国の騎士やギルドの選りすぐりの冒険者が挑戦しているがただの一人も踏破したものもいない。戻ってきたものは口々に「どれだけ歩いても何もなかった」というばかり。そして紆余曲折を得て現在の難易度がついたわけだ。
では、なぜ私がそんなところに来たのか?もちろん食料確保のためもある。だが、それ以外にも理由がある。それは私の仕事のことだ。
「いまダンジョンにいるのは3人。入ってからそろそろ一年だけど、やっぱり誰も戻ってこないわね…」
私の仕事はダンジョンに挑戦した人を記録すること、そして運よく入り口まで戻ってこれた人の保護だ。
現在挑戦しているのは3人。私がこの地に来てから数えると記録したのは今回の人を含めて8人。残念なことに戻ってくることができたのは一人もいない。一年が過ぎた段階でその人は死亡扱いとし、出発前に託された手紙や形見を家族や友人に送るのも私の仕事だ。
「あと三日。なんとか戻ってきてくれたなら嬉しいのだけど…」
そうつぶやくも、内心では諦めている。今回もまた出発前に預かった手紙を家族におくらなけばならないと思うと憂鬱である。
そんなことを考えているとなにやらうめき声のようなものが近くから聞こえてきた。
「お腹…すいた…」
弱弱しいが、確かに聞こえる。もしかして誰か戻ってきたのかと思いあたりを見渡す。だが、姿は見えない。倒れているのだろうか。
「どこ?どこにいるの?」
ためしに聞こえた声に問いかけてみる。だが、返事はなかなかない。まつことしばし。不意に軽快な音が聞こえてきた。
それに続くように先ほど聞こえた声とは違う女性が歌う声が聞こえる。
…あっちのほうね。
音を頼りに草原を歩いていくと、そこには一人の男性が倒れていた。
見たことのない服装をしているし、先ほどの女性の歌声は男性が持つ黒い板から聞こえてくる。そして私を見て男性はこういった。
「なにか食べ物…あと水…」
そういうと男性は気を失った。
これが私と彼の出会いだった。
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