chapter1-6

自身もその技を極め、一人の愛弟子に教え込んだ技。そしてそれを感じているのは士郎だけではなかった。


「父さん!」


物陰から飛び出した樹は、酷く怯えた目をしていた。

心臓が高鳴り、信じたくない想像とは裏腹にその体はエクティスが繰り出す全ての太刀筋に覚えがあった。

何千何万回と手を合わせた相手を忘れるはずもなく、ただ一つ違うのはあまりにも見難く凶暴なその容姿だけ。


「父さん! それは……それはまるでっ……!」


言葉にしてしまえば、それを信じてしまいそうで、目の前の怪物が白石裕也だという事を認めてしまいそうで、彼はそれを言葉にする事をためらった。


「思っていたより動きが重いな。それに貴様ら、エクティスの手の内を知っているように見えるが?」


音もなく、男がいつの間にかエクティスと士郎の間に割って入り、愛でるようにエクティスの腕を撫でていた。

気配さえなく、まるで空間を飛び越えたようにしか見えなかった。


「男……お前は何者だ。そしてこの化物は一体なんだ!」

「名乗るほどではない。私はある人間により呼び出されただけだ。そうだな、貴様らの言葉では悪魔とでも言えるかもしれない。ただのしがない研究者なのだがね」


男は唾を返し、士郎へと向く。


「私の研究は力の探求であり、より高度な生命体を作り出す事。被験者の心に呼応して、それにふさわしい精神と肉体を造りだすことが私の仕事だ」

「……訳のわからない事をほざくなよ。事によってはその首、斬り落とす」

「この子も私が創りだした元人間だ。そういえば名を名乗っていたな、そう、白石――」


言葉が終わるより早く、士郎が動いた。

しかし殺す気で喉元に叩きこまれた斬撃は男に当たるすんでの所で止まってしまった。

もちろん士郎が止めた訳ではなくそこに隔てる壁が一枚あるかのようにどれだけ力を込めてもそれ以上動かない。


「人間というものは野蛮だ。言ったろう、私は心に呼応してそれを作りかえる。だから私は無理矢理彼を変えたわけではなく、その姿は彼自身が望んだものなのだ」

「嘘だっ!」


信じたくない、たとえこの怪物が裕也だとして、それを願ったのが彼自身だなんて有り得ない。

動けずにいる士郎の刀をうっとうしそうに押しのけながら、男はまたエクティスの後ろにワープした。

そして、何かを思いついたようににやりと笑う。


「そこの人間には、何やら特別な思い入れがあるらしい」


男はゆっくりとエクティスに近づき、囁く。


「エクティス、あいつを殺せ」


命ぜられると同時にエクティスは先ほどよりも更に速く地面を踏み砕く勢いで跳び、呆然と立ち尽くす樹に斬りかかる。

だが間一髪、原平がその斬撃を刀で受け止める。


「剣術は私の本分じゃないんですケドねェ」


エクティスの重い斬撃をやっと受け止めた原平をよそに放心状態の樹はふらふらと力なく彼に歩み寄る。


「!? やめろ樹! 逃げるんだ!」


士郎が助けようとするも男が操る不可思議な力に身体を押さえつけられて身動きがとれない。


「こっの……!」

「私の研究の邪魔をするな。あいつが終われば、次は貴様だ」


士郎が止める事も出来ず、樹はエクティスの前に立ち、変わり果てたその体に触れて、泣いた。


「嘘だよね? こんな身体を、こんな力を裕也が求めたなんて。あんなに優しい裕也が、そんな事するはずないよね……?」


エクティスは何も答えぬまま、原平を薙ぎ払う。彼女の身体はいともたやすく吹き飛ばされ、数メートル後ろまで吹き飛ばされ転がる。


「いいぞエクティス、殺せ」


エクティスの腕の刃は、その声に応じるように樹に振り下ろされる。

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