10

 どことも知れぬ暗い一室があった。

 光源は天井付近を浮遊する、小さな光の塊だけ。それが照らす範囲も部屋の隅まで届くことはなく、ともすれば光源の周りを囲む部屋の闇は無辺に続いているようにすら思えた。

 そんな光源の下に五つの人影。濃緑のローブを頭から羽織る男ザカライアと、その隣の椅子に悠然と座る黒ドレスの女。さらにその隣で大きな身を屈め、女よりも頭を低く保つ黒ローブの男。そして、その正面で浮遊する紫ローブの女が居た。

 今はフードを取り去り、その下の顔が露わとなっている。ドレスの女とは方向性の違う、どちらかといえばかわいらしいと言える整った目鼻立ちと、瞳と同じ色のサラサラと流れるアメジストの長髪。

 纏う雰囲気とはどこか違和感のあるそのかわいらしい顔には、これまた違和感のある妖艶とした笑みが浮かび、その傍らには人影が立っていた。

 背丈は少女と言えるほどのものだが、丸みを帯びた胸や腰は女性を感じさせるもの。顔は違和のない整ったかわいらしいものであるが、その象徴たる薔薇色の瞳は今は虚ろだった。流れる豊かな小豆色の髪は光球に照らされて陰影を生んでいる。

 その細い顎に紫ローブの女は手をやり、五指で撫で上げると満足げな吐息を漏らした。

 陶然としたその様子を見て、古代魔術師ザカライアが呆れたように言葉をかける。

「それが、前々から気に入ってたってやつ? ガキじゃないか」

「それがいいのよ。小娘なのに、頑張っちゃって。ふふふ、かわいいわ」

「あいっかわらず趣味悪いなぁ」

 返答を聞いて嫌そうに口元を歪めるザカライアに、女は鼻を鳴らして「わからなくて結構よ」と返す。

 そのまま虚ろな少女を愛でる女に、然して興味もなさそうなドレスの女は「それで」と口を開いた。

「メレディス、刻印は如何に?」

「……一応、布石は撒いといたわよ。でも、私の目的はこの娘だし」

「では、していないということか」

「そういうわけじゃ――」

 メレディスと呼ばれた紫ローブの女がようやく黒ドレスの女に視線を向けた瞬間、その喉が干上がる。

 その右手が、メレディスに差し向けられていたのだ。

「『先生』、待っ――」

 刹那、破砕音。メレディスの背中の向こう、部屋の壁が拳ほどの大きさに丸く抉られていた。

 そして、その穴と女の手を線で結んだ直線状にあったメレディスの右腕とわき腹には、同様の穴が生まれている。夥しく零れ落ちる血液、メレディスの身体がくの字に折れた。

 苦悶の声を漏らすメレディスに、女は酷薄に告げる。

「我は、刻印を刻め、と言ったはず。約定を違えるなら相応の覚悟をせよ。その身体を失いたくはなかろう?」

「……ッ、申しわけ、ありま、せん」

 身体を折りながら頭を下げる人形師に、女は静かに目を細めていると、横合いから男の乾いた笑い声が響いてくる。

 メレディスが視線をやれば、そこにはシノノメと如何にも重傷といった風体のギディオンが居た。先ほどまでは居なかったはず、ということは、今さっきやってきたということだ。

 シノノメも無傷ながら、濃厚な血の臭いを漂わせている。一仕事してきた後だった。

「いやはや、魔女殿の用事に付き合わされたかと思えば、叱られておろうとは。果たし合いを邪魔された身としては、胸のすく思いよ」

「っ、うる、さいわね。刀を取り上げられたら、何もできない武者、が」

「おお、怖い怖い」

 ギロリ、と睨みつけるメレディスに、おどけて両手を上げて肩を竦めるシノノメ。隣でギディオンが吹き出し、メレディスの視線の圧力が増す。

 そんなやりとりを無視して、女は同じように問うた。

「刻印は」

「してきたとも。警察の手の者と死合うことにはなったが、その後きちんと『東』に仕掛けてきておいた」

「なれば良し」

 そう言って、女は傍らのザカライアに視線を向ける。それに応え、懐から人の爪の入った小瓶を取り出すと、古代魔術師は魔術式を構築。人の爪を吸収して発動された古代魔術は、淡い光の塊を放ち、それは傷だらけのギディオンを包み込んだ。

 数秒の後、光が消えるとギディオンの身に刻まれた深い傷の数々は、白い線の浮かぶ古傷と化していた。

 腕を回し筋肉を伸ばすギディオンは体の具合を確認し、「毎度やるじゃねえか」と笑みを浮かべる。そんな賛辞に、ザカライアはただ肩を竦めるだけだった。

 それを見ながら、メレディスは懐から肌色の粘土のような塊を取り出す。そして、痛む身体に鞭打ちながら、苦労して塊をくり抜かれた脇腹に押しつけると、魔術式を展開。

 式から放たれた光が傷口と粘土を覆い、やがて消えた頃には傷一つない綺麗な脇腹が傷口を埋めていた。

 同様のことを右腕にも行い、傷を埋めた女はようやく一息つく。その様子を見ながら、ザカライアはぽつりと呟いた。

「便利な身体してるよね」

「あら、ならあなたもコレクションになる?」

「結構だよ」

 灰色の瞳を細めて嫌がるザカライアにメレディスは鼻を鳴らすと、アメジストの瞳をドレスの女に向けて言う。

「先生、『お客』が来ているようですので、この辺りで」

「そうか」

 メレディスが懐から取り出した羅針盤を見下ろしながら言った言葉に、女は静かに頷くと、隣の黒ローブの頭を優しく撫でる。

 それに静かに唸って黒ローブは応えると、ザカライアは魔術式を展開した。懐から取り出された粉が魔術式に消え、発動。メレディスと少女以外の全ての姿が転移にて消え去る。

 無音となった空間、残された人形師は、傍らの少女を愛でながらその時を待つ。つり上がった頬が、それを本当に楽しみにしている証左だった。

「ああ、早く来ないかしら――エドワード」

 期待する言葉を零し、それが叶うのは間もなくのことだった。









 まず真っ先に頭に浮かんだのは、懐の存在だった。

 エドワードは懐をまさぐり、黄金の羅針盤を取り出す。隣でクリフォードが対策本部から何かの連絡を受けているようだが、無視。マイルズは消えた妹の方向を見て固まっている。

 羅針盤は――動いていた。

 ゆらゆら、ゆらゆらと。動き回る対象を捕捉して、針が間断なく動いている。

 クリフォードの報告が、遠い世界のことのように耳に入る。

「――<ブリンク通り>で幹部らしき二人と警官が交戦中だそうだ。マイルズ隊長、どうする!?」

「わ、我々は――」

 何か答えようとして言葉に出ないマイルズ。それすらも気にならない。

 針は西を指していた。クリフォードによれば、東の<ブリンク通り>に羅針盤を持つであろう幹部が居るはずなのに、羅針盤は頑なに西を指している。エドワードの望むとおりに。

 それは、エドワードにとって吉報。この羅針盤が、きっと望む場所へ導くだろうと直感が語っていた。

 すぐそばの己の事務所一階のシャッターを開き、エドワードは中から愛車たるスクーターを取り出して起動させる。

「エドワードさん!?」

「どこへ行くつもりだい!」

 何かを言おうとするマイルズとクリフォードの横を通り抜け、エドワードは針の指す方向へとスクーターを走らせた。



 車を追い越し、警察の検問を走り抜け、向かい風を顔面に浴びる中でもエドワードの頭の中は混乱していた。

 胸を押し上げる焦燥感と灼熱に燃える怒り。それらの衝動だけでこうして単独行動に走る己の行動が、彼を混乱させている。

 冷静に考えれば、団体で行動するべきだ。カレンの命がかかっているのなら尚更で、己一人でどうこうしようなど愚の骨頂。

 それはわかっている。だが、それでも己がどうにかしなければ、と焦燥の影にある使命感が叫ぶのだ。それはいったいどういう感情の裏にあるものなのか。わからなかった。

 自覚できないモノに振り回されるなんて、一体何年ぶりか。

 思わず口元に苦笑いが浮かびながら、それでも止まることはない。針の示す方向を根拠もなく信じ、走り続ける。

 そして、やがてそれは見覚えのある場所を通り過ぎたところで針がぐるりと回った。つまり、通り過ぎたということだ。

 スクーターを巡らせて停止させると、そこは何の変哲もない、舗装の跡が新しい狭い道路だ。だが、エドワードがここが何であったか、嫌でも記憶に新しい。

 八ヶ月前の大事件。その直前で、崩壊の羅針盤コラプスゲートのトゥリエスにおける活動拠点を潰し回っていたときに、カレンと共に攻撃した拠点だ。

 それはこの舗装された場所の真下、街の発展の過程で生まれた地下のデッドスペース。そこに、針は強烈な反応を示している。

 もはや迷うことはない。通信魔具で一言、場所を告げ、後は己の感情に任せることにした。

 引き抜いた長剣の切っ先とその逆の左手に構築される魔術式。左手に紡いだ、破壊力を下方に集中させた『爆裂エクスプロード』を舗装部分に叩き込めば、容易くアスファルトは砕けて鉄筋を破り、大穴が形成される。

 記憶通り、穴の下には暗闇の中に広がる大きな空間がある。その中へと、エドワードは躊躇なく身を踊らせた。

 着地し、油断なく長剣を構えれば、己の周囲を取り囲む無数の気配を察知する。襲撃に備えられていたことに、もはや驚きはない。問題は、誰が居るのかということ。

 その答えは、穴から射す光の下に姿を現した周囲の気配の一つが教えてくれた。

 姿を見せたのは、女性。短剣を握り、短い黒髪を揺らしてこちらへと歩いてくる。表情は虚ろであり、目には紫の輝き。むき出しの両腕の肘は、球体関節を露わにしていた。

 それはつまり、あの人形師の人形であるということ。闇に慣れてきた目で周囲を見渡せば、女性以外はマネキンめいた、顔にも身体にも何の特徴もない人形が蠢いていることに気づく。

 ここは人形師の根城だと、なんとなく把握できた。そして、針がここを指すと言うことは、その人形師はここに居ると言うこと。

 それさえ確定されれば、今のエドワードには十分だった。

 抑えつけていた怒りが、ここに爆発する。

「邪、魔、だァッ!」

 躊躇なく切っ先の魔術式を目の前の女性人形に差し向ける。全ての人形が迎撃せんと動こうとしたようだが、それは意味を為さず。あらゆる行動より早く、魔術が放たれた。

 即ち、極光。かつて竜を殺したエドワードの切り札が、彼の怒りによって呼び覚まされ、放たれる。

 『極光神閃レディエイト・オーバー』を無理矢理に発動。

 目の前の人形を一瞬で消し炭に変え、そのままエドワードは身体ごと長剣をぐるりと重く薙ぎ払う。切っ先に発動された極光の閃光はその動きに追従して回転。彼を囲んでいた人形たちはそれだけで塵も残さず光に呑まれ、有利だった彼らは一瞬にして消し去られていく。

 しかし、その強引な一撃も一回転を迎える前に、何かに激突。その瞬間、光が魔力にほどけて消え去り、その手応えにエドワードは驚きを覚える。魔術を式という根幹から消し去られたのだ。

 人形を粗方片づけるも、最後の一瞬がエドワードに警戒を覚えさせる。どう考えてもあり得ない、超級の魔術が一瞬で消されるなど。

 しかし、エドワードは知っている。そのあり得ないを可能にする剣を。その所在を。

 しかし、それこそ信じられるか、と目を見開く彼の眼前に――彼女・・は、現れる。

 淡い水色の寝間着。背中の中程まで流れる小豆色の髪。虚ろな薔薇色の瞳の奥には、紫色の妖しい光。

 その顔立ちは、その姿は、どこからどう見てもカレン・ブリストルだった。

「――ッ」

 エドワードの喉が干上がる。恐れていた事態が、目の前に顕現していた。

 黄金の大剣を握り、構える姿は確かにカレンだ。しかし、捲られた袖から露わになっている肘は球体関節となっており、その身が人ならざるモノであることを如実に示している。

 彼女がさらわれてまだ一時間である。そんな短い間に、彼女は既に人形にされてしまったのだ。

 その事実が、エドワードの心の何かをガラガラと崩していく。

 目を大きく見開き、固まるエドワードの前で、カレンの後ろの闇から紫色のローブが姿を現した。人形師の女メレディスだ。

 フードで頭を隠し、唯一見える口元を三日月にして陶然と囁く。

「どう? 私の新しいコレクション。素敵でしょう?」

「お、まえ……!」

 干上がりうまく動かない喉で、エドワードが掠れた声と共に睨めば、その視線を遮るようにカレンが前に出る。

 その姿に、思わず一歩下がるエドワードに対し、意志の見えないカレンは容赦しなかった。

 刹那、カレンが大地を蹴ってエドワードに向けて飛び出す。その強化された身体能力による疾駆は、僅か数歩で彼我の距離をゼロに変えんとしていた。

 対し、エドワードができたのは構築していた式を反射で発動することだけ。

 『風衝ウィンドストライク』の風の塊が一直線に迫るカレンに放たれ――次の瞬間、消滅した。突き出された黄金の大剣に触れた瞬間、魔力に戻って式が散らされたのだ。

 彼女の握る物は、間違いなく魔術殺しマジックキラー。先の極光も彼女によって消されたのは確定したが、そんな事実はどうでもいい。

 傷つけまいと放った魔術は意味を為さず、結果として接近を許す。そして、裂帛の勢いで踏み込んだ彼女は大上段から大剣を力強く、エドワードに向けて振り下ろした。

 長剣を構えて受けるエドワードだが、これまでその細腕に見合わぬ膂力で数々の敵に対抗してきたカレンの一撃である。まして、その身体は人形化したことで強化されていた。

 つまり、受けたエドワードの長剣は一瞬の拮抗すらせず、威力に負けて後退。胸の前まで落ちた長剣は防御の意味を為さず、カレンの一撃はエドワードの肩口に打ち下ろされた。

 大剣の刃が、親指ほどの長さまで左肩に食い込む。およそ骨にまで達する一撃は、エドワードの食いしばった歯の隙間から苦悶の声を引き出し、次いで放たれた前蹴りは彼の水月に直撃。

 エドワードの肺から全ての空気を吐き出させつつ、圧倒的威力によって刃から身体は解放され、血の尾を引きながら後方に思い切り転がっていく。

 あまりの痛みにのたうち回りそうになる身体を抑えつけ、立ち上がったエドワードは紡いでいた魔術式を発動。これまでの戦闘経験から、思わず放った牽制の『爆裂エクスプロード』は、突き出された大剣によって容易く消失した。

 そして、大地を蹴って迫るカレンによる追撃。

 放たれた刺突を身を捩って避けつつ、彼女の肩口を狙って放ったエドワードの刺突も同じように身を捩って回避された。

 次いで放たれるカレンの逆袈裟の振り上げをしゃがみ込んで避けながら、足を薙ぎ払って足払いをかけるもカレンは跳躍して回避。そのまま彼女は、上空から全体重を乗せた大剣を振り下ろす。

 地面を蹴り横に転がって回避しながら、エドワードは長剣に式を構築。至近距離ならどうだ、と放とうとした魔術は、薙ぎ払われた大剣を長剣で受けた瞬間、式が砕け散った。

 そのまま膂力だけで大剣を振り抜かれ、自身に長剣を叩きつけられながらエドワードは殴り飛ばされる。

 痛む左肩から地面に叩きつけられ、思わず苦鳴をあげながらエドワードが立ち上がると、カレンは大剣を構えて静止していた。

 その時間を利用して、努力して整息。同時に思考を巡らせる。エドワードは絶望しながらもまだ諦めてはいなかった。

 カレンは操られているため、どうにか拘束して動きを止める必要がある。人形化をどうにかする方法を探すのはその後だ。

 だが、それを為すことが最も難しい。大剣は魔術を無効化し、その身体能力は控えめに言って化け物だ。一体何をどうしたら拘束できるのか見当もつかない。

 加え、今は静観しているが、すぐそこに崩壊の羅針盤コラプスゲートの幹部が居る。いつ横やりを入れるとも知れず、意識を割く必要がある。

 ここで一人で来た弊害、愚かしさが露呈した。マイルズやクリフォードが居たなら、まだ状況はいいものを。

 思わず顔を歪ませるエドワードだが、ふと、ここでカレンの容姿に気になる点を見出す。

 それは、手。寝間着姿には見合わない、分厚い革の手袋が装着されていた。

 しっかりと柄を握っていることからすっぽ抜けるなどといった下らない希望的観測は期待できないが、しかし、なぜそんなものを着けているのか。

 カレンの普段の装備で、あんなものは見たことがない。手甲の下にグローブを装着することはあれど、指先の感覚を優先して薄手の物だったはずだ。

 ならば、あれは人形師が与えたもの。そして、魔術殺しマジックキラーは柄から切っ先まで全てでその能力を発揮する。以前、柄頭で炎の砲弾をかき消していたからそれは確かだ。

 この二つを考えれば、自ずと導き出されるのは、大剣に今のカレンが直接触れると人形師にとってまずいことが起きるということ。

 もしかしたら、そこに勝機はあるのかもしれない。

 気力も新たに剣を構え直すエドワード。

 だが、事は、そう簡単には運ばない。

「飽きたわ」

 唐突に、地下空間に声が響く。

 声を発したのは人形師メレディスであり、視線だけ向ければ彼女は小さく嘆息していた。

「生きてる人間は嫌いだけれど、私、懊悩を抱える様やどうにもならない現実に苦しむお馬鹿さんは好きなのよね。だから、わざわざこうして色々と準備して、用意したのに、あなたったら全然諦めたり苦しんだりしないもの。こんなつまらない人形劇こしばい、飽きちゃうわ」

「何を――」

 突然の独白に、困惑するエドワードの前で、メレディスのつまらなげに尖らせていた口元が突然三日月に変わる。

「だから、そうねぇ。ここは私のお人形遊びで溜飲をさげるとしましょう。私の、特にお気に入りの遊び――」

 口元と同じ、三日月を掲げる杖をそっと持ち上げる。その神聖金属ミスリルの三日月が輝き、それに合わせてカレンが大剣を取り落とした。

 そして、両手を大きく広げて固まるカレン。

 状況の変化に判断を迷うエドワードだが、それが致命的だった。

「――お人形コレクションをぐちゃぐちゃにすることで、ね」

 刹那、三日月が輝きを増し――


 ――カレンが、砕け散った。


「……あ?」

 その光景を、エドワードは理解できなかった。

 砕かれている。人体に不相応な表現ながら、そうとしか形容できないほど、カレンは、その身体は、ばらばらになっていた。

 幼子が振り回して壁に叩きつけられた人形のように。

 手足はもげ、首はちぎれ飛び、腰は真っ二つになり。

 ごろりと転がった首。その瞳には、もはや何の光も宿されていない。

 その光景を、エドワードは見たことがあった。

 既に脱却したと思っていた、トラウマ。親友の死に様。

 あまりにもソレと酷似した、相棒の――死。

「ぁ」

 フラッシュバックする。かつての親友ロイドの姿。これまでの相棒カレンの姿。

 あの勇猛なる少女が、関わった人の死に心を痛める女の子が、それでも優しい笑顔を浮かべる彼女が。

 今、目の前で、バラバラに、砕かれた。

 その現実に、心が軋みを上げて。

 同じように砕けるのは、当然だった。

「あ、あ、ああぁぁぁ――――――ッッッ!!!」

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