04

 エドワードは白い廊下の脇にある座椅子に座っていた。

 知らずやってきた眠気を払うために眉間を解すように揉み込んでいれば、普段馴染みのない薬品の香りが鼻につく。おかげでぼんやりしていた頭が覚醒し、ここが病院であったことを思い出す。ザラのところのような個人医療院ではなく、国が建てた大きな病院だ。

 傷の消毒も必要ない便利な治癒魔術が存在するのに、こうして前時代的に薬品の匂いが濃厚であるのは、現代魔術に治癒に関する魔術が存在せず、古代魔術にしかないからだ。

 現在も研究が進んでいるものの、それでも古代魔術でしか傷を治す、という効果は得られないのだ。また、病気を治す効果を発揮するものは古代魔術にも存在しない。

 故に、古代魔術に必要な薬や物を保存するための薬品の匂いが、病院内には氾濫していた。

 不思議と落ち着かない気分になるのは、香りの中に混じる刺激臭の所為か、それとも子供のころからなんとなく感じる苦手意識か。

 どうでもいいことか、と思考をいったん区切り、顔を上げる。

 視線の先には、窓から差し込んだ夕日に照らされる、カレンの姿。マイルズが治療室に担ぎ込まれてから、ずっとその扉の前で立ち尽くしている。

 時間がかかっているのはおそらく、マイルズを貫いた凶刃が臓器を傷つけている可能性があるために、慎重に治癒を施しているものと思われる。

 治癒魔術と言っても、無節操に傷をくっつけるだけで、臓器や皮膚の状態などを考慮してくれるわけではない。下手な治癒を施せば、皮膚と臓器がくっついてしまう可能性とてあるのだ。

 故に、昼からこの夕方まで治療室はずっと閉まったままだ。扉の向こうでは今も、忙しく動く気配がある。

 それをぼんやり感じ取りながら、エドワードは思わず口を開く。表情には苦渋が満ちていた。

「すまない」

 久しぶりの言葉に、カレンが僅かに反応する。しかし、振り返りはしなかった。

「……何が?」

 思っていたよりずっと柔らかい声に、少しだけ安心を覚えながら、エドワードは言う。

「お前の、兄のことだよ。はっきり言って、油断していた。もう少し警戒していれば、こんなことにはならなかった」

「それは、私の台詞よ」

 振り返ったカレンの顔は、エドワードと同じ表情をしていた。疲労、怒り、そして後悔。色々な感情がない交ぜになっていて、可憐な顔からは今にも涙が浮かびそうだった。きっと自分もこんな顔をしているのだろうな、となんとなくエドワードは思う。

 それでも気丈な彼女は決して泣かず、懇々と後悔を述べる。

「あなたは守られる立場よ。期待しているとは言ったけど、その立場に甘んじるなとは言ってない。あなたを護るべきは、油断しないでいるべきは傍にいた私で、兄さんじゃなかった。あなたが責任を感じるものではないわ」

「だが……」

 思わず顔に手をやり、エドワードは重く息を吐く。額を押さえ、悔恨の思いを封じて言葉を重ねる。

「……こんなナリだが、これでも昔は軍属だった」

「そう、なの。道理で、襲撃から生き残れたのね」

「ああ。死地も潜ったことがあるから、気配だとか嫌な予感、ってものには敏感だっていう自負がある。だっていうのに、この様だ。自分が情けなくて仕方がない」

 誰かに守られる、誰かが常に傍にいる、なんていう状況は、エドワードにとって本当に久しぶりだった。およそ七年ぶりといっても過言ではない。それが彼の孤独を癒すと同時に、孤独によって研いだ牙を鈍らせることになったのだろう。

 だからといって、エドワードを責めるカレンではない。彼の言葉など気休めにもならない。

 彼女とて、特殊部隊であるという自負がある。だというのに、完全な奇襲を受け、その上で別行動を取っていたはずの兄に守られるなど、自信を砕かれる思いだろう。

 二人とも大いに油断し、崩壊の羅針盤コラプスゲートに見事にしてやられた。そういうことであり、それだけのことだ。

 責任の所在を論じていても仕方ないと思い、エドワードは話を変えるべくカレンに尋ねる。

「……そういえば、マイルズはどうしてあんなに焦っていた? なにかあったのか?」

 思い出したのは、襲撃の直前のマイルズの顔。恐ろしく焦っていて、だがこちらの姿を認めた一瞬は安心していたようにも見えた。

 その問いに、カレンは思い出したように答える。

「さっき、下部組織のほうから連絡があったから確認したわ。どうやら奴らについて調べているうちに、私たちへの襲撃計画を掴んだみたい。通信で連絡しようとしても妨害されてるのかつながらなくて、それで急いで私たちを探していたらしいわ」

「そう、か。それはまた、世話になりっぱなしだな」

「ええ、本当に」

 再び沈黙が落ちる。

 なんとなく二人とも喋りづらくなって黙っていれば――治療室の扉が、唐突に開かれた。

 思わず見れば、担架に乗せられたマイルズが運び出されていく。顔は穏やかで、胸はゆっくりと上下していた。無事、治療に成功したようだ。

 このまま病室に送られるのだろう、エドワードの前をゆっくりと通り過ぎていく。カレンも、今度は縋るような真似をせず、静かに見送った。表情には安堵が満ちていた。

 病院に担ぎ込む前、エドワードの見たマイルズの顔は、かつての友と同じ土気色だった。死の気配が、どうしようもないほどに寄り添っていた。

 だが、今見た顔は多少青白かったものの、死は遠くに感じられる。そう、かつての友とは違う。あんな風にはならない。

 脳裏を過ぎっていたトラウマが遠ざかっていく。あの時の再現になど、ならない。むしろ、そんなことは絶対にありえないのだ。思い出すこと自体がそもそも間違っているほどの、違いがある。

 ならば、今こそこのトラウマと決別すべき時なのかもしれない。そう思えば、心の中が晴れるようだった。

 だから、

「なあ、カレン」

「……なに?」

崩壊の羅針盤コラプスゲートを、この街で叩き潰して、追い出してやる。協力、させてくれ」

 なればこそ――エドワードはカレンを、放っておくことはできなくなった。

 このままであれば、カレンは崩壊の羅針盤コラプスゲートを一人でも追うだろう。現実に、目の前のカレンは驚きながらも決意を秘めた面持ちだ。五日という短い時間であれ、ともに過ごした時間のあるエドワードにはそれが読み取れた。

 そうすると、カレンには必ず死の危険が付きまとう。トラウマを刺激する、あの濃厚な死の臭いがこの少女にまとわりつくのだ。

 我慢ならなかった。

 まだ二十年も生きていないであろう子供を死の危険ソレに晒すことも、その兄をソレに晒したことも――いつまでも、トラウマソレにおびえ続ける自分にも。

 ここが分水嶺。

 自らの命を、この少女の命を奪いかねない存在を叩き潰すことで、決別するしかない。トラウマと、それにおびえ続ける自分と、命を狙う連中と。

 久方ぶりに、総身に力が漲ってくる。いつも疲れ切っていた身体は、どうしてか最高に調子がいいように感じられた。

 心配げにエドワードを見るカレンに、視線を合わせて言う。

「お前の兄の代わり、とまではいかないが、減った手数を補う意味はあるだろ?」

「……でも、」

「頼む。協力させてくれ。俺はそうしなきゃならないんだ。今やらなかったら、絶対にこの先後悔する。だから、頼む」

 必死ともいえるエドワードの懇願に、困ったように口をつぐむカレン。

 暫く逡巡していたカレンだが、決意を秘めたエドワードの瞳に根負けしたのか、言葉が響いたのか。やがて頷き、そっと右手を差し出す。

「こちらこそ、よろしくお願いするわ」

「ああ」

 その右手にエドワードは己の右手を重ね、固く握りあう。


 ここに、零細探偵事務所の所長と特殊部隊の精鋭という、奇妙な協力体制が実現した。









 二人が事務所に戻ったころには日が暮れていた。

 しかし、ゆっくりしている暇はないと応接室の机に地図を広げ、さっそく捜査を開始する。その間にもなにか起きていないか、と一応ラジオも起動させた。

『本日午後14時ごろ、アンプル通りで刺傷事件があり――』

『明日のベースボールは目玉の、トゥリエスレッド対ツァールキングです。果たしてトゥリエスレッドは例年最悪の連敗記録を――』

『本日、和平締結に向けた使者が出発し、三日後には到着の――』

 チャンネルを切り替えて何も起きていないことを確認すると、エドワードは地図に視線を戻す。

 カレンは通信魔具を片手に色々と書き込んでいたようで、トゥリエスの街にいくつかの赤い丸が描かれていた。

 そのうちの一つをバツしながら、カレンは言う。

「兄さんは奴らの拠点を発見して、そこで私たちの襲撃計画を知ったらしいの。それが、ここ。で、そこは既にもぬけの殻だったんだけど、奴ら、相当焦って逃げたみたいね。色々と資料が残っていたわ。その中から、他の拠点の場所を割り出すことに成功したの。それが、これらの赤い丸よ」

「なるほど。結構な数があるな……いくつかはダミーと思っていいだろうな」

「ええ。それにいくつかの区画も混じってるから、丸を付けていてもどの建物かはわからないわ」

 思っていたより、目星がついている分楽だが、それでも面倒そうだ、と小さく舌打ちし、エドワードはペンを手に取り無数の赤丸のうち、いくつかに手を入れていく。

「ここらへんは空き家がないし、どこも大手の商店が牛耳ってる店が入っているから除外。これは周辺に廃ビルがあるから、周囲に多少聞き込みすれば人の出入りがあるかはわかるはずだ。それで、この通りは住宅街だな。空き家は知らないが、怪しい集団、特によそ者がうろついてたらすぐにわかるはず、聞き込みすべきだな。それで、これだが、周辺に建物がないようにみえて、実は下水道のところに意外と広い空間がある。人も来ないし出入りも見られずに済むから、臭いさえ我慢すれば拠点にできないこともない。それで――って、どうした」

 次々と消したり二重丸にしたりと、淀みない動きのエドワードに、口をぽかんと開けて見つめるカレン。その間抜け面に気付いて思わず問うと、その顔のまま「いえ、その」と言いづらそうに答える。

「あなたがそんなに頼りになるとは思わなくて……本当に詳しいのね」

「言っただろ? 探偵事務所だから街の地理を把握してなきゃならん、と思うからな。尤も、詳しいのは二年間の家なし生活のせいだけどな。雨風凌げる場所を一日中血眼になってさがしてた」

 と、皮肉げに笑みを浮かべてエドワードは言う。何が役に立つかわからないものだ。

 納得したように頷いたカレンだが、ふと、疑問を覚えて尋ねる。

「二年も家がなかったのに、どうやってこの事務所を建てられたの? 頑張ってお金貯めたのかしら」

「ん? いや、そういうわけじゃないんだが……」

 と、作業する腕を止めずに思考するエドワード。言いにくい事情でもあるのか、とカレンが思い始めたころ、おもむろに口を開く。

「まあ、路地裏でチンピラに絡まれてるのをたまたま助けた相手が、たまたま道楽大好きな金持ちで、たまたまそういう気分だから、といってポンと大金とこの建物を寄越してくれた、ってだけだよ」

「……それ、ホントの話?」

 あまりにもぼんやりとした運の良い話に、カレンはじっとりした視線でエドワードを懐疑的に見る。

 そんな彼女を鼻で笑い飛ばしながらエドワードは肩をすくめた。

「さてな。そら、お前もやることあるだろ。ぼさっとしてたら奴らがこの街から逃げるかもしれないぞ」

「まったく。それなら大丈夫よ。街の出入りは、警察に無理言って検問かけさせてもらってるわ。それに、さっき話した奴らの拠点に、まだこの街に用がありそうな形跡があったもの。奴らがこの街に暫く残るのは間違いないわ」

 あなたもいるしね、と付け加えれば、そうだった、と彼はさらに肩をすくめる。

 崩壊の羅針盤コラプスゲートへの対処が受動的から能動的になったといえど、狙われている事実は変わっていないのだ。

 しかし、こちらから潰しに行けば問題はない。今度は襲撃する側とされる側をひっくり返してやればいい。

 そう思ってエドワードは笑みを浮かべ、場所の絞り込みをどんどん進めていく。時に聞き込みに走っているらしいカレンの部下からの報告を挟みつつ、バツ印を増やしていけば、やがて残ったのは十数か所となった。

 そのころになると、流石に月も頂点から高い建物の陰に隠れ、時計は日付を越えるような時刻を指していた。

 残った十数か所はどうしても削れなかったが、逆にそれでよかった。拠点が一桁ほどに絞れるとは二人とも思っていない。

 このなかにもダミーが存在するであろうことから、あとは実際に確かめるしかなかった。

 つまり、直接訪問――ついに襲撃をかけるのである。









 宵闇の中、二人の乗るスクーターのライトが残光を残しながら路地裏を駆けていく。

 目的地は<ミル通り>の一画に座す廃ビル。複雑に曲がりくねった路地を迷いなく進みながら、エドワードは後ろのカレンに、風切り音に負けないように声を張り上げて尋ねる。

「手筈はどうなってる?」

「わたしたちの部下が、タイミングを合わせて他の数か所の拠点に同時攻撃を仕掛けるわ! 合図を出せばやってくれるから、あなたにそれを任せる」

「よし、わかった!」

 負けじと大きな声のカレンに向けて頷くと、スピードをあげて路地を駆け抜けていく。いつ感付かれるとも限らない、故に可能な限り拙速を尊ぶ必要があった。

 そんなエドワードに焦りを感じたのか、警告するようにカレンが声を上げる。

「ちょっと、敵はダミーを仕掛けてきてるんだから、罠がある可能性が高いわ! 焦ってもいいことはないのよ?」

「ははっ、安心しろ! 手は考えてある、焦ってもいないさ」

 ところが、エドワードは笑い声をあげ、まったく焦りの色を見せていない。それどころか、なぜか楽しそうに笑みを浮かべている。

 「どうしたの」と訝しそうにすれば、「学生時代を思い出した」と素っ頓狂な答えが返ってきた。

「どんな学生時代よ?」

「ちょっとやんちゃだっただけだ!」

「ええ……?」

 と、妙に和やかなやり取りをしていれば、間もなく目的の廃ビルが見えてくる。

 道は開けていて、あとは一直線。仮に廃ビルがダミーではなく大当たりだとすれば、このままでは見つかってしまうだろう。

 そろそろ止まって合図を出すのかと思いきや、逆にエドワードはスクーターを思い切り吹かしてスピードをあげる。

 後ろでカレンが「なんで!?」と驚愕する中、ハンドルから離した左手に燐光が集る。

 形成されるは魔術の基たる魔術式。練り出した魔力が幾何学模様を描き、『爆裂エクスプロード』の式を浮かび上がらせる。

 まさか、とカレンが目を見開くも、遅い。

 左手を前方に高々と掲げ、式がひときわ強く輝いた。

「これが合図だ、派手にいくぞっ!」

「うそでしょっ!?」

 カレンの悲鳴を巻き込むように、強烈な爆発がビルの入口どころか中身をまとめて吹き飛ばした。

 黒煙が巻き上がる中へと猛スピードのスクーターが突っ込み、火花を散らすドリフトを利かせて吹き飛んだ一階層に停車する。そのさなかに、何が起こったのかわかっていない崩壊の羅針盤コラプスゲートの構成員らしき男をはね飛ばしたが、いまさら気にする余裕はなかった。

 周囲を見渡せば、まさに死屍累々と言った有様で人がバタバタと倒れている。絵面だけ見ればいったいどちらがテロリストだろうか、とカレンは追いつかない頭で思わず考えた。

 しかし、人がいた。しかも誰も彼もが武装している。ということはつまり、

「ビンゴだ! やるぞカレン!」

「ああ、もう! こんな無茶苦茶する人だとはおもわなかった!」

 喜々として長剣を抜き放つエドワードに、文句を叫びながらもカレンはコートを脱ぎ捨て大剣を抜き払う。体の要所に鎧をまとった姿はまさに特殊部隊であり、エドワードは「頼りになるな」と呟いて眼前を見る。

 あるかもしれない罠を吹き飛ばすための『爆裂エクスプロード』は思った以上の効果を発揮していたらしく、ふらつきながらも立つ人間は僅かだ。他は直撃を喰らって命を落としたか、気絶したか。

「て、敵襲ーっ!」

「なにっ!?」

 しかし、流石に何が起きたか気づけない馬鹿は居ないようで、上の階層から声を上げながら何人もの男女が武器を抜いて降りてくる。

 三階建ての廃ビルであるから、当然一階だけでなく上にも人がいたのだ。つまるところ増援であるが、それを黙ってみているエドワードではない。機先を制する者が勝つ、故に再度の先制だ。

「喰らっとけ!」

 長剣の切っ先に魔術式を展開し、そのまま思い切り薙ぐ。切り捨てるには間合いが足らぬが、そこを補うのが魔術だ。

 『電鞭エレクトロウィップ』が発動、切っ先から青白い電撃の鞭が飛び出て、軌道に合わせて前方を薙ぎ払った。

 弧を描いて襲い来る青白い鞭に、当たった先から人々は感電し、その動きを麻痺させて大地に伏す。魔術師だ、と騒ぐもその時間すらエドワードの味方だ。

 さらに左手にもう一度『爆裂エクスプロード』を展開し、撃ち放った。しかし、再び爆裂が人々を吹き飛ばす――その直前。

 二重の半透明のサークルが構成員たちの目の前に展開され、爆裂を正面から受け止めてその威力を完全に遮断する。結果、サークルの後ろに控えていた者たちは無傷となった。

 それが『障壁シールド』の魔術だと見抜いたエドワードは思わず舌打ちする。

「魔術師かっ」

 言ってる間にも、構成員たちの後方で燐光が漏れる。

 まるでさっきの焼き増し。式を描いている、と気づいた時には後方でひときわ強く燐光が発光し、魔術の完成が為されていた。

 直後、構成員たちの頭上から弧を描いて、炎で形作られた槍が飛来する。

「くそ――っ!?」

 全力で、同じく『障壁シールド』の魔術式を展開しようとするが、その直前、突然目の前に躍り出た後ろ姿に瞠目した。

 目の前にあるのは紛れもなくカレンの背であり、飛来する炎の槍に、無謀にも黄金の大剣を構えている。そして、その大剣を上から下へと、ただ鋭く振り下ろした。

 そんなことでは魔術には対応できない。振り下ろされる黄金と飛来する灼熱の火炎。結果は明白であり、たとえ炎槍を切ったとしても彼女のその身は炎に焼かれることだろう。

 思わずエドワードが声を上げそうになった瞬間、信じられないことが起きる。

 大剣に炎の穂先が激突した瞬間――跡形もなく魔力の燐光となって散ったのだ。

 切り捨てたのでもなく、対抗レジストしたのでもない。完全に、魔力に還して無害化したのだ。

 エドワードも構成員たちも呆然となる中、張本人たるカレンだけが動く。

 振り下ろす勢いのまま大剣を大地に叩きつけ、切っ先を地面に埋めて大きく跳ぶ。大剣を軸として半円の軌道を描き、前方に着地。そこは敵のど真ん中であり、周囲全てが大剣の間合いだった。

 細腕からは考えられない剛力で大剣を引き抜き、そのまま円を描くように薙ぎ払う。旋回する刃が、彼女の周囲に居た者をまとめて切り捨てた。

 その円運動の最後に再び大地に叩きつけ、跳ね飛んでエドワードの眼前に舞い戻る。

 その様を呆けてみていたエドワードだが、そうしている場合じゃないと慌てて左手に魔術式を展開する。


 そして、廃ビルに爆発音と悲鳴が響き渡り――数分後には、完全に静寂が訪れていた。

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