第4話販売戦略
「およはう、ございます……」
一瞬目を疑った。明朗快活、出所不明の元気さだけが取り柄みたいな右左見が死人のような形相でひょろりとした声で挨拶をしてきたからだ。しかし、見た目は間違いなく右左見である。
「よう。なんだ、何かあったのか?」
「え? ええ、まぁ、はい……」
虚ろな目で返事を返されたが、正直焦点が全然合ってないのが怖い。
「話くらい聞いてやるぞ。何があった?」
顔を覗き込んで無理矢理目を合わせると、右左見は長く深いため息を吐いてから、こう切り出してきた。
「昨日、ア●ゾンから、FFX●の発送をしましたってメールが来たんです……」
「? それで何でそんなテンションなんだよ?」
すると右左見は死んだ魚のような目にどす黒い光を宿らせて俺を見返してきた。怖え、何だコイツ、本当にどうした。
「いいですか? FF●Vですよ? 正式発表されたのは今から約10年前、名前もヴェル●スXIIIという名前だったんです。それから何の続報も無いまま全く別物のFFXII●が発売され、誰もが諦めていたタイトルなんです。それが、急にX●として出しますと言われて、豪華な披露パーティーで発売日まで発表されたんです。ですが、その発売日も呆気なく延期され……。そんなタイトルがですよ? 発送されましたって言われても。それは本当に僕が予約して待ち望んでいたFFX●なのだろうか? と思うととてもじゃないですが眠れなくて……」
「お、おう。よく分からんが闇が深いな……」
「……そういえば先輩は、FFってやってましたか?」
今度は俺の顔色が曇る番だった。何故なら。
「いや、実はあれから色々思い出してく内に気付いたんだが、俺は元々マイナーなゲームが好きだったんだよな……。まぁ、というよりは、中古屋で安いゲームってなると売れてないゲームだから自然とマイナー路線にいった訳だが」
「中古屋? って、ツ●ヤとかのことですか?」
「あー、お前の世代の頃にはもう下火だったのかもな。昔は中古ゲーム専門店があちこちにあって、少ない小遣いでやりくりしようとするガキには丁度良い場所だったんだよ。何時間も居座って、端から端までソフト選んで、あれを買うかこれを買うかって悩んでたもんだ」
「え? 目当てのソフトを探す、とかじゃなくてですか?」
「今でこそネットで何でも情報が得られるが、当時はインターネットはあってもゲームの公式サイトなんてほとんど無かったし、中古屋でジャケ買いが主だったんだよ。タイトルとパッケージ、それから裏に書いてあるちょっとした説明。そういうのを見てどんなゲームか想像して買うわけだ」
「なんか、凄い賭けですね……」
「お前らからしたらそうだろうな。この前ちょっとゲーム関係の事を検索したら、ソフトの公式サイトがあってキャラ紹介から果ては概要を纏めたムービーまであって驚いたわ。発売前にあんだけ情報があるとか逆に混乱する」
「今はどんどんソフト1本の価格が上がってますからね。情報をかき集めて精査した上でどのタイトルを買うかっていうのは大切なんですよ。それこそ中古落ちまで待つべきか、とか。自分の肌に合うかどうか分からない新作に1万は中々出せませんから」
「え、ちょっと待て、新作タイトルって1万もすんのか!?」
「正確にはもう少し下ですけど、それでも平均したら7~8千円はしますよ。しかも最近はなんとかリリース週に成績を上げたいという戦略として、初回限定生産版とか色々プレミアもついてきますし。あとオフィシャルグッズとかも出ますからねー」
「闇が深いな……」
「ゲーム業界も今大変ですから、商売にするには仕方ないんですよ……」
「俺達も、仕事始めるか……」
「そうですね、何だったら現実の方が優しい時ってありますよね……」
同僚曰く、その日の俺達のブースには何か近寄り難い重い空気が立ち込めていたという。
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