第2話メジャーとマイナー【前編】

 「うわー、マジかよ……」


 先輩が神妙な面持ちで呟いた。あれ? こんな感じのセリフ、最近も聞いたような。---と思って見ていると、急にカッと目を見開いて睨みつけられた。ヒッと思わず背筋を伸ばす。


 「お前、この前俺と飲み行きたいって言ってたよな?」


 「え、は、はい」


 「よし、今日行くぞ」


 「ええ!? いいですけど、急にどうしたんですか?」


 先輩は深いため息を1つ吐くと、呟いた。


 「サービス終了のお知らせが2つ届いたんで課金代が浮いてな……」


 繕う言葉が見つからなくて、やっとのことで苦笑いを返した。




 ------




 「しっかし、この短期間で3つもサービス終了ってキツいっすねー……」


 ひとまず仕事終わりの乾杯をして、キンキンに冷えたビールを味わってから切り出した。さて、どうやって慰めたらいいものか。

 しかし先輩から返ってきた言葉は、ちょっと意外なものだった。


 「まぁな。マイナーなタイトルしかやってねぇから結構あることなんだがな」


 「マイナーなタイトル、ですか?」


 「そ。だからまぁ、ある程度覚悟はしてるんだけど、こればっかりは慣れようもねぇ」


 「何でまたマイナーなタイトルばっかりやってるんですか?」


 先輩がお通しを食べながら「んー」とうなる。


 「メジャーなタイトルはさ、追いつけねーんだよ。フェスやら祭りやらイベントやら、毎月何かしらやんだろ? 期間限定のそういうのに追いつける程の時間も金も流石にな。マイナーなタイトルはそういうところが緩くていい」


 「あー、それはちょっと分かります。僕もモン●トとかパ●ドラとかは忙しいと思いますもん」


 「てかさ、お前この前俺のこと課金勢っつったけど、お前は課金しねーの?」


 「しませんねー。課金しなくても充分遊べますし、そういう期間限定イベントも乗れたら乗っかるくらいの感じなんで。あ、すいませんビールジョッキでください」


 傍を通った店員さんに注文すると先輩も追加でビールを注文した。


 「お、お前いける口だな。でもイベント限定のキャラとか欲しくなんねーの?」


 「うーん、気にはなりますけど、僕並行してやってるアプリの数が多いんで、一々それやってると気が狂うと思います」


 笑いながら新しくきたビールを喉に流し込んだ。


 「多いって、ちょっとスマホ見せてみろよ」


 「あ、いいですよ。はい」


 ロックを外して先輩にスマホを手渡すと、「は!?」と耳を劈く勢いで驚かれた。幸い賑やかな居酒屋だったのでそれほど目立たなかった。よかった。


 「おま、何で2台持ってんの? 秘密結社か何かに入ってんの?」


 「秘密結社wwwwwww 違いますよ、機種変した時に余った古い方をWi-Fiでのアプリ専用機にしてるんです。まぁ、早い話ゲーム機ってことです」


 「いや、にしても、にしてもだぞ? ちょっと待て、1、2……こっちが70で、こっちが55だから……125個!? は、どういうことだ!? 今のスマホってそんなスペックあんのかよ!?」


 「あ、いや流石にインストールしただけで起動してないのもあるんで、実質全部を動かすのは多分無理です。いやあ、でも僕そんなに落としてたんですねー。この前整理したばっかりなんですけど。あ、すいませんビールジョッキでください」


 「あ、じゃあこっちも追加で。いやでもスマホ2台持ちで入ってるアプリがほとんどゲームって……現役ゲーマーってこういうモンなのか?」


 「どうなんでしょう? 僕は雑食なんで色々入れてますけど、むしろ一般的なソシャゲユーザーは先輩みたいな感じだと思いますよ。メジャーマイナーは置いといて。あ、あと僕にペース合わせると大変になると思うんで無理しないでくださいね」


 「うっせ、人を老いぼれ扱いすんじゃねーよ。しかしこんだけやってりゃ、確かに何となく分かるわ。1つ1つに課金してたら破産じゃ済まねーだろうな、これ」


 「F2Pだからできることなんですけどね。落とす分には無料だから、つい興味があるとすぐ落としちゃって。だからアプデの時とか大変なんですよ。大体水曜木曜辺りにメンテからのアプデが多いんで、アプデが終わるまで充電器に繋ぎっ放しにして待ち続けるんです。しかもたまに確認しないとエラー吐いてたりするんで、もうかかりっきりになっちゃって。あ、すいませんビールジョッキでください」


 「あ、こっちも同じの。つーかお前、結構やるじゃねーか」


 頭にハテナマークを浮かべると、カラになったジョッキを指でつついてきた。


 「酒。久しぶりに飲める後輩が来たぜ。最近の奴らは酒に興味ないのが多いからな」


 「あー、ですよね。僕もゲーム仲間は飲むよりゲーム派が当然多いんで、中々飲む機会ってありませんでしたよ。僕はお酒も好きなんでもっぱら家で独り酒です」


 「言われてみると俺もゲームやらなくなってから飲むようになった気がすんな。よっし、明日は休みだしとことん飲むぞ! あと面白くて程よくメジャーなタイトル教えろ!」


 早くも呂律が何となく怪しくなった先輩と、今夜は飲み比べになりそうだけど……結末が楽しみだ。




 後編へ続く。

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