本日もゲーム日和

ビス

第1話フリートゥプレイ

 「コイツがお前の直属の上司になる上下だ」


 入社1日目。紹介されたウエシタ先輩は、キリッとしたつり目のちょっと怖そうな人だった。

 でもこれから色々教えて貰ったりしてもらうんだからと、精一杯の笑顔とハキハキとした声で自己紹介をすると決めた。


 「本日付で配属になりました、右左見です! よろしくお願いします!」


 すると上下先輩は気だるそうに「よろしく」とだけ言うと、僕のデスクの位置と当面の仕事の説明を簡単に教えてくれた。


 「ま、新人なんだしあんま気負いすんなよ」


 おお、実は優しい人なのかもしれない。ちょっと安心。


 とりあえず出された課題に取り組んでいると、急に先輩が「うわー、マジか……」と声を上げた。


 「どうしたんですか?」


 デスク越しに問いかけると、先輩は重々しく口を開いた。


 「いや、結構課金してたソシャゲがサービス終了するらしくてなー」


 先輩は椅子の限界まで仰け反ると、また溜息を吐いた。


 「っていうか意外です。先輩って課金勢だったんですね」


 「当たり前だろ、課金しなきゃ運営が滞るんだから」


 「まぁ、言われてみればそうですけど、最近のソシャゲは基本F2Pじゃないですか」


 「えふつーぴー?」


 仰け反っていた体を今度はこっちに傾けて聞いてくる。


 「フリートゥプレイの略です。ざっくり言うと基本的に無料で最後まで遊べるバランスにしてますよって意味ですかね」


 「へぇ、お前ゲーム詳しいんだな」


 「まぁ唯一の趣味がゲームなんで、そこそこに」


 苦笑して返すと、先輩も笑った。それが初めて見た先輩の笑顔だった。


 「実はさ、俺も学生まではゲーマーだったんだよ。でもなんつーのかなー、就活とか忙しくなってって、知らん内に色んな情報が出てて、まぁゲームからは落ちこぼれたって訳だ」


 その懐かしむような笑顔が、何故だか胸に突き刺さった。

 もう一度、先輩にゲームを楽しんでほしい。教えたい。ゲームは今からだってちゃんと楽しめるし、大人になったって変わらずワクワクできるはずなんだ。その証拠に、先輩は課金してソシャゲを遊んでるみたいだし。


 「先輩、今度飲みに行きましょう! ゲームの話がしたいし、聞きたいです!」


 「うおっ、何だよ急に」


 思わず席を立って前のめりになった僕に驚いて、慌てたように周囲を見回した。


 「分かった、付き合ってやるから、とりあえず落ち着け。あと社内で大声出すのは緊急時だけな?」


 ハッとして見回すと、近い席の人達から視線を浴びまくっていた。恥ずかしさと申し訳なさで、もう穴があったら入りたい。


 「ククッ、変な奴が来たもんだ」


 先輩が面白そうに笑ったのを、僕はまだ知らない。

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