第380話思はぬ方に泊まりする少将(10)堤中納言物語
妹君は、恐ろしくて、ただ震えるばかり、弁の君としては、もうどうにもならないけれど、妹君の袖を握って出来る限りの抵抗をします。
しかし、右大将の少将は、そんなことには全く頓着はありません。
そのうえ少将は
「今、こうなってしまってからは、ただただ前世からの因縁とお思いなさいませ」
「この私としても、姫君の悪いようにするとは。万の一つも考えておりません」
と、ついに几帳を隔ててしまいます。
弁の君は、泣きながら座っているだけです。
やはり、この右大将の少将も、本来の姉君だけでなく、妹君にも、かぎりない想いを抱いていたのです。
さて、明け方になれば、それぞれの女君がお帰りになります。
それぞれ相手を替えてしまった男君たちから、お歌をいただいたようですが、つい聞き漏らしてしまいました。
男君と女君、四人とも同じ想いを感じているようですが、中でも男君たち二人は、どうにもならないことながら、結局は胸につかえるものがあるようです。
そうかといって、本来のお相手の女君に対しては、想いがしっかりあるものですから、昨夜の珍しい恋のご様子がかえって、心を苦しめてしまうのです。
「右大臣の少将殿から」とお手紙がございます。
といっても、これは表向きのこと、実は昨夜の相手の右大将の少将からのお手紙です。
妹君は、まだショックで起き上がることもできませんが、他人から見れば不審な様子となるので。、弁の君が広げてお見せになります。
「思いがけず、私のこの手に馴れてしまった梓弓、深い契りで引いてしまったのでしょうか」
(思いもかけない契りを結んでしまいました。これはきっと前世からの深い契りなのです)
それを見た妹君は
「ああ・・・」
と、ゆっくり見ることもできません。
それでも人目をはばかり、弁の君がさりげなくお返事を書いて、包んで差し出します。
また、もう一人の女君にも「少将から」ということで、お手紙があります。
「浅くない縁であるからこそ、涙川、同じ流れに袖を濡らしたのでありましょう」
(もともとが深い御縁であったので、私はあなた方姉妹に辛い恋をして、涙を流すのだと思います)
・・・とあるけれど・・・
男君たちは、どちらの女君に対しても適当なおつきあいをする程度の気持ちしかないのかもしれません。
それを何度も繰り返して考えても、二人の姫君の同じようにご不幸な御心を思うと、お気の毒なばかりで・・・と原文には書いてありました。
(完)
○まあ、すごく適当な平安時代の風俗なのだろうか。
男君のいい加減さ、翻弄される女君の哀れさ。
様々、感じることがある。
○どことなく宇治十帖の匂宮と薫のパロディの要素も含んでいる。
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