第370話高くついた穴子天丼

夕方、曇り空の下、駿河台の坂を下る。

目指すのは、神保町古本屋街。

お目当ては特に無いけれど、種種雑多な本にあふれているのが楽しい。

同じ文庫本でも、ここでは500円、あっちでは300円、少し状態が悪いと100円の店もある。

ただ、自分としては、頭に入る内容は同じなので、100円のを買う。

本は体裁にあらず、内容と思っているから。


さて、そんなことを思いながら、なんとなく本を探していると

「トントン」

と背中を叩かれた。


「え?」

振り返って


「あ!あれ?」

目の前には、美佳が立っている。


美佳は

「あれ?じゃないでしょう!」

「目配せしたのに、気づかないって」

「相変わらず、鈍感で朴念仁で」

・・・・文句を言い出すと止まらない。


しかし気づかなかったのは事実。

何とか話題転換を試みる。

「今日は何?本探し?」


美佳

「あったりまえ!ここで本を見ないでどうするの?」

その美佳は、どうやら何冊か買ったらしい。

少し重そうだ。



「ふーん・・・」

ただ、自分としては、それ以外に話題がない。


美佳が、少しいたずらっぽい顔になった。

「ねえ、おなか減った」

「おごるからさあ」


少し焦った。

「おごってくれるだけなら」

と返す。


美佳

「あはは、私とあなたのつきあいで、そんなことないって」


焦りが現実になった。

おごられた食事は、天丼の老舗「はちまき」の穴子天丼。


その見返りとして

・かなりの重たい本を美佳の家まで持つ。

・ついでに本棚の整理を手伝う。


かなり時間がかかったし、疲れた。


そのうえ、美佳は変なことを言ってきた。


「夜も遅いね、泊まっていく?」


・・・おいおい・・・

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