第368話私は誘惑する!(9)

涼に手をつながれたまま、加奈子は真緒の「お屋敷の中」を歩いた。

「すっごい豪華だ、ロココ調の雰囲気、やはり真緒さんはお金持ちだ」

「でも、私は涼君の手の方が気持ちがいい」

「音楽は人の手と息で奏でるもの、ロココ調なんかじゃない」

と必死に心を落ち着かせる。

もっとも、本音は「涼とお手々つないで」がうれしくてたまらないだけ。


さて大きな扉の前で真緒が振り向いた。

真緒

「あらあら、やはりベストカップルねえ!」

「涼もスミにはおけない、まあ、その方が話がスムーズだ」

「うんうん、よしよし」

とニンマリ顔で、涼と加奈子に声をかけてくる。


涼はそこでもヒッソリ

「真緒さん、そんなこと言っていないで、おなかへった」

「さっさと食べたい」

加奈子は

「え?涼君、そんなこと言っていいの?」

となるけれど、真緒は涼の言葉ですんなり扉を開ける。


扉の中に入っても、ロココ調の豪華な部屋。

内装といい、テーブル、椅子といい・・・

加奈子は焦った。

「やば・・・テーブルマナー・・・」

横目で涼を見るけれど、ヒッソリ感は変わらず。

そして運ばれてきたのは、やはり「豪華なフレンチ」

真緒

「少し軽めにしたけど、コンクールのドレスもピチピチだから」

と言いながらも


「前菜」スモ-クサ-モンとジャガイモのガレット(グラブラックスソ-ス)

「スープ」コキヤ-ジュのクリ-ムス-プ (サフランの香り)

「主菜」 和牛バヴェット ポテトピュレを添

が運ばれてくる。


加奈子は「テーブルマナー」にほぼ、必死。

真緒も涼も、すんなりきれいに食べている。

加奈子には「本当にいいの?場違い」と思っているけれど、いまさら仕方がない。


さて、真緒の「お腹」も落ち着いたのか、ようやく

真緒

「それでね、お願いっていうのはね」

加奈子の顔をじっと見てきた。

加奈子は

「あ・・・はい・・・」

必死に牛肉を飲み込む。


真緒

「あのね、今度、この家でパーティーをするの」

「それで、本当に申し訳ないけれど、涼君と一緒に何か演奏して欲しいの」

ようやく「頼み」のことが明らかになった。


加奈子は思った。

「こんなお屋敷に集まる人って、すごい人達かもしれない」

「大丈夫かなあ」

しかし、目の前の真緒は笑っている。


真緒

「私はコンクールが近いし、違う曲を弾きたくないの」

「で、涼君にお願いしたらね、自分だけ?って言ってくるからさ」

「私もじゃあ誰?って聞き返したら」

真緒は、そこまで言って涼の顔を見る。


涼は、色白の顔が真っ赤になっている。

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