第367話私は誘惑する!(8)

加奈子は、少しビビった。

「・・・こんな高級車って乗ったことない」

「ピカピカのBMW・・・どうやって乗るの?」

「しかも、運転手付き?いったいこの人達って何?」

普通に乗ればいいと思うけれど、おっとり加奈子はオロオロ加奈子になってしまった。

車に乗っても、涼は相変わらず「ヒッソリ」だし、真緒はコクリコクリと寝てしまう。


加奈子は思った。

「私、すごく場違い」

「それにどこに行くの?」

「これって誘拐?拉致?」

こうなると、ますますオロオロ加奈子である。


さて、そんな状態で高級BMWは都心を抜け、閑静な住宅街。

涼がポツリ。

「ここ、駒場の東大に近い」

加奈子

「え?東大に行くの?」

なんともピントがはずれた質問らしく、涼はクスッと笑う。

「違うよ、真緒さんのお屋敷に行くの」

加奈子はまたしても「?」

「・・・お屋敷・・・え?」

となるけれど涼は

「加奈子さん、あそこに見える」

と、細くて長い指を伸ばす。

加奈子

「え?きれいな指・・・じゃなくて、え?」

ついつい、涼の指をオロオロ加奈子は見てしまったけれど、涼の指の先を見ると、「確かにご立派なお屋敷、洋館」が建っている。


加奈子は驚いた。

「ほーーー・・・これからあそこに?」

つい身を乗り出すと、


ほぼ同時に真緒が

「ふぁーーー」と大きな背伸びと、あくび。

どうやら目を覚ましたようだ。


そして真緒は加奈子に

「ところで、加奈子ちゃん、お酒大丈夫?」

突然、聞いてきたものだから

加奈子

「あ!はい!・・・たしなむ程度で・・・」

と、答えた。


それを聞いた真緒

「よしよし、ワイン追加だ!」

「昼から飲めるなんて最高だ」


すると涼は

「え?マジ?」

頭を抱えている。

加奈子は、よくわからなかったけれど、それは「お昼から飲むことへの呆れ」と捉えた。

確かに、それは世間一般の常識みたいなものだと思った。


そんなやり取りが少々あったけれど、ついに高級BMWは、真緒の「お屋敷」の玄関前に横付けになった。


涼が先に降りて、加奈子の手を握ってきた。

加奈子

「・・・どうしよう・・・こんなお屋敷で・・・」

と思ったけれど、すぐに

「でも、涼君の手、気持ちがいい」

で、落ち着いた。


そして、車を降りたのだけど・・・


涼と手はつないだままになっている。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る