第364話私は誘惑する!(5)

加奈子は焦った。

何しろ、「ヒッソリ涼君」が、にっこりと自分を見ている。

しかも・・・

自分に向かって歩いてくる。


加奈子

「あ・・・あ・・・」

自分でも、顔が赤くなるのがわかる。

それがとても恥ずかしい。

しかし、そんなことを気にしている場合ではない。

「お目当ての涼君」が、あっという間に自分の前に立ってしまったのである。



そして涼が、自分に話しかけてきた。

「加奈子さん、ちょっといいかな?」

いつもの「柔らか、ひっそり声」だけれど、暗くない。


加奈子は

「え・・・はい・・・」

「何でしょうか」

もう、ドギマギしてしまって、ロクな笑顔も見せられない。

「すごくヤバイ、もったいない」と思うけれど、どうにもならない。


しかし、涼は加奈子のそんな状態は気にかけない。

「ちょっと」の話をしてきた。


「これから音楽理論?」

・・・わりと当たり前の話だ。


加奈子

「うん・・・涼君も?」

それでも、当たり前だけど、言葉を返せた。

加奈子は、少しホッとする。


「うん、一緒」

「もしね、時間がその後空いていたら、お願いしたいことあるんだ」


加奈子はここで、「天にも昇る気持」になった。

お目当ての涼と一緒の授業。

それに涼の隣に座ることができると思う。

そのうえ授業の後も「お願い」となると、また一緒だ。

うれしくてしかたがない。


加奈子

「はい!大丈夫です!」

つい、大きな声になった。

何しろ、うれしくてしかたがないから。


涼は、またニッコリと笑った。

「じゃあ、一緒に授業に行こう」


加奈子は

「はい!」


一緒に歩きだすけれど、うれしさのあまり、「足元がちょっとフワフワ」になっている。

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