第363話私は誘惑する!(4)

おっとり加奈子は、お目当ての涼に声をかけた途端、立ち止まってしまった。


「涼くーん!」

なにしろ、加奈子以上に大きな声で、涼に声がかかったのである。

しかも、声をかけた主は、四年生のピアノ科、有名新聞社主催のコンクールで上位入賞が確実視されている真緒だ。

とにかく服装と言動は派手目、かなり美人、スタイルはモデル並み。

これでは加奈子でなくても、ちょっと引く。

しかし、今はその真緒は、加奈子のお目当ての「涼君」と話をするようだ。


結局自分の声が届かなかった加奈子は、「遠目」から真緒を涼の雰囲気を、それでも観察。

加奈子

「うーん・・・親密って感じもないなあ」

「でも涼君も全然、引いていない」

「なぜかなあ」

「単に話しているだけみたい」

「ひっそり涼君と派手目のエリート真緒さん、変な組み合わせだ」

「・・・って・・・そういう状態じゃないでしょ!今の私って」

と思っていると、涼と真緒の話は終わったようだ。


真緒が

「じゃあ、涼君、よろしく!」

といつもの感じで、派手目に合図をする。


涼は

「うん」

とだけ、いつものヒッソリ感が漂っている。


加奈子は思った。

「涼君、あの態度では、真緒さんが可哀想だ」

「ヒッソリ涼君は、影が薄い涼君になった」


しかし、加奈子は、思い出した。

涼に声をもう一度かけようと思った。

そして、やはり咳払いをしてから


「涼君!」

さっきより大きめな声。

上手に甘い声を出すのは、失敗した。


でも・・・


涼は振り向いた。


「あ!加奈子さん!」

しかも、珍しくニッコリ笑っている。

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