第365話私は誘惑する!(6)

音楽理論の講義中、加奈子は涼の隣に「しっかり」座って、ドギマギのし通し。

涼は、いつもの「ヒッソリ感」を漂わせている。

しかし、「おっとり加奈子」と「ヒッソリ涼君」が一緒で隣に座っても、派手目が主流の音大では、全く注目もされない。

その意味においては、加奈子は気にしないのだけど、涼がさっき言った言葉の

「ちょっと」が気になりだした。

それまでは、「涼君と一緒に座れる」がうれしくてしかたがなかった。

しかし、それが達成した今では、次の「ちょっと」が気になりだしたのである。


ただ、今は「さされるかもしれない音楽理論」の講義中。

気をそらしていると、万が一とんでもない質問が飛んでくる可能性がある。

そこで「恥ずかしい失態をさらす」と、涼君に恥ずかしいと思う。

そんなわけで、気が抜けず、長い長い100分の音楽理論の講義になってしまった。


それでも、音楽理論の講義は終わった。

すると

「ちょっと付き合って欲しい」

「お願いしたいことがある」


加奈子

「うん、ところで、何?」

この際だからピッタリと寄り添って大教室を出た。


涼は、そこで意外なことを言った。

「うん、真緒さんのところに行くんだけど」


加奈子は首をかしげた。

「え?真緒さん?」

加奈子の頭の中に混乱が生じた。

「おっとりの私と、ヒッソリの涼君と派手目エリート美女の真緒さんの接点は?」

いろいろ考えるけれど、思いつかない。


涼は相変わらずヒッソリ声で

「真緒さんのところへ行けばわかる」

「大丈夫、心配いらない」

「レッスン室で待っているって」

そう言いながら、スマホのライン画面を見ている。



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