第356話ジャズ・コンボを聞きながら

金曜夜9時、かなり寒くなった。

残業もようやく終わった。

この時間帯だと、普通の飯屋はほとんど店じまいしている。

後は帰るだけだから、少し酒と少々の胃に入るものでいい。

できれば落ち着けるところがいい、仕事で疲れた神経を休めたかった。


入った店は、学生時代から馴染みの小さなジャズバー。

入ると、ピアノとベース、サックスのコンボが、バラードをやっている。


「あら、いらっしゃい」

なじみのママが挨拶に来た。


「ああ、何か、少々で」

頼むのも簡単だ。

意と違うものを持ってきても、拒みもしない。

そんな気力もない、とにかく疲れているから。


ママもそれ以上は何も聞かない。

どうせ俺の顔色を見て何か持ってくるだけだ。


少しして

「お待ちどうさま」


イタリアの赤ワインとカルボナーラだ。

少し重たいかなと思ったけれど、口に入れれば、すんなり。

赤ワインもどっしり系、カルボナーラは俺好みの胡椒と塩が少し強め。

結局、腹と神経は落ち着いた。


ママ

「あと、二、三曲聴いていく?」


「ああ、いいね、かなり上手」

「聴きやすい」


ママ

「最後まで付き合ってくれてもいいよ」


「え?」


ママ

「送って欲しいな」


「ああ、近所だからね」


ママ

「そのまま泊まってもいいわよ」


「おいおい・・・」

ジャズ・コンボはいきなりアップテンポの曲に変わった。

さて、どうしたものか。

少しためらっているうちに、スローバラードに変化した。


「人肌も恋しいな」


ママはプッと吹き出している。





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