第355話美術部多佳子の妄想(完)

多佳子は、帰宅してからも、気持ちが落ち着かない。

「うーん・・・やはり可愛い」

「あんな可愛い男の子、モデルにして拘束できるなんて」

「ポーズはどうしよう」

「片肌だして・・・」

「あら・・・なんかドキドキだ」

そんなことをずっと思っていたら、眠れなくなってしまった。

結局眠りについたのは夜中の三時頃。

それでも朝は来るので、腫れぼったい目で朝食を食べている。


そんな多佳子に口うるさい母が

「多佳子、何かあったの?」

「健太君って誰?」


多佳子は焦った。

やばい、寝言にまで健太君が出てきたと思った。

だから

「ああ、一年生の男の子」

「モデルになってもらおうかなあと」

と答える。


母は呆れた。

「あのさ、そんな腫れぼったい目で、寝言にまで出てくるような男の子を描くの?」

「人物画って、そんな冷静さのカケラもない状態で描くことができるの?」


多佳子は、それでムッと膨れる。

「うるさい、描いても見せてあげない」

そう言って、残りの朝食を無理やり口に詰め込んでしまう。

後は、身支度、これだけは手抜きはしない。

何しろ「可愛い健太の独占時間のためには、手抜きなんて以ての外だ。

健太には、素敵なお姉さんと、どうしても思われたい。


そんな少し張りつめた状態で、通学路をたどり、学園に到着。

まず、健太に「再確認」をしようと思った。


・・・が・・・しかし・・・

健太を探して歩いていた多佳子の目に「とても容認ならない状態」が写った。


「え?何?あいつ!」

多佳子の視線の先に、莉乃と健太が「すこぶる楽しげに」談笑している姿がある。


すると莉乃の目にも多佳子が写ったようだ。

そして莉乃

「ねえ、健太君は今日都合が悪くなったって」

ニンマリと笑っている。


多佳子は、「え?何?どういうこと?」で、ツカツカと二人に歩み寄る。


健太は、

「多佳子さん、気を持たせてごめんなさい」

「でも、モデルなんて嫌です」

「いろいろ考えたけれど、今日は莉乃さんとコンサートに行きます」

と、「アッサリ」とにこやかにお断りだ。


多佳子は、もう口が「への字」。

これでは、まさに「完敗」だ。


莉乃からも冷たい言葉

「どうして、何でも急にモデルなんていうの?」

「私なんか、一週間も前から健太君を誘っていたんだよ」

「だいたい、多佳子って、妄想高め過ぎ」

そこまで言って、莉乃はケラケラと笑って三年生の自分の教室に戻っていく。


うなだれてしまった多佳子に、健太が、今度はすまなそうな顔。

健太

「あの、多佳子さん」


多佳子は意気消沈中

「・・・何・・・」


健太

「本当に恥ずかしいので、今回はごめんなさい」

「でも、僕は多佳子さんの描いた絵を見たいと思っています」

「多佳子さんには、憧れているので」


多佳子

「・・・え・・・?」

驚く多佳子の手を、健太はキュッと握ってきた。


そして多佳子

「ふふ・・・」

また、妄想が膨らんできているようだ。


                                (完)

※いつか(笑)続きを書くかもです。

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