第345話珠理奈の両天秤(4)
珠理奈は結局玲奈の言葉を気にしなかった。
玲奈に意味を聞き返したけれど、玲奈は教えてくれることもなかった。
ただ、一言。
「ご自分で判断すれば?」
そういうことだから、
「自分で判断するだけ、結果責任は自分」となり、気にすることはなく、毎晩ぐっすりと眠ることができた。
さて、そんな数日が過ぎ、支店長の御子息でもある系列証券会社の課長が、新宿支店に来店をした。
支店長の指示もあり、新宿支店の融資部長との面談になる。
珠理奈
「いらっしゃいませ、相談室にご案内します」
と頭を下げながら、支店長の御子息の様子を見る。
支店長の御子息は姓は同じながら邦男という名前。
その邦男は
「ああ、噂に聞いていた珠理奈さんだね、よろしく頼むよ」
少し横柄な感じ、香水もキツめ、体型は支店長とは打って変わって、でっぷりしている。
顔つきは、髪をポマードでがっちり固め、眉と目が細い。
そして気になったのは、口臭がひどい。
珠理奈は案内をしながら
「え?マジ?まるで、そのスジみたいな感じ・・・」
と思ったけれど、業務指示でもあり、相談室まで案内をした。
相談室での話は、一応仕事の話だった。
内容としては、5億の融資。
担保の内容や償還財源、資金使途が書いてある計画書を「軽くポン」と渡されただけで、内容の説明も何もない。
後はゴルフの話や宴会の話ばかり。
そして何より、御子息邦男の口臭もひどいし、態度も横柄。
5億の融資話も、「融資されて当たり前」のような話し方をする。
つまり、
「親父がここにいるから、借りてやっている」
「君達の実績にもなるし、親父の実績にもなる」
「親父だって、将来は銀行の幹部、経営陣に入るんだからさ」
「まあ、この俺もそのルートさ」
と話をして、珠理奈を見つめてくる。
融資部長は、ただただ、ヘイヘイと頭を下げるばかり。
珠理奈としては、「ほんとにマジ?」と思ったけれど、必死に長時間の雑談とひどい口臭に付き合ったのである。
そして、ど丁寧に頭を下げて、邦男を見送った後、自分の席に戻った。
隣席の玲奈がまた一言。
「なんとか、通るように稟議書書くんだね」
「ふ・・・」
「本店育ちのあなたにできるかしら」
珠理奈は
「え?何?私が?」
と聞き返すと
玲奈
「私は、しーらない!」
と、どんどん退社してしまった。
それも仕方がない、すでに夕方の5時を過ぎている。
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