第344話珠理奈の両天秤(3)

珠理奈は新宿支店の融資部に異動した。

支店長自ら臨んだ異動でもあり、珠理奈も懸命に新しい職場に馴染もうと努力をした。

そのため、仕事や人間関係は順調に進んでいる。


さて、珠理奈が新宿支店に異動して、ほぼ一ヶ月。

支店長から呼び出しがあった。

珠理奈が支店長室に入ると

支店長

「珠理奈さん、ほんとうにしっかりと仕事をしてくれている」

「新しい職場に早く馴れたようで、私としても安心している」

と、まずはお褒めの言葉。


珠理奈は

「あ、いえいえ、まだ至らぬことばかり」と少々の謙遜をする。


支店長

「それで、仕事にも絡むけれど」

支店長は、仕事と絡む微妙な話をするようだ。


珠理奈は銀座本社で、敦子から聞いた

「支店長の御子息との話なのかな」

と感じたけれど、まさか、そんなことはありえないと思っている。


珠理奈が

「はい・・・どういうことでしょうか」

それでも、慎重に言葉を返すと


支店長

「この銀行の系列の証券会社に、私の息子が勤めている」

「最近は、課長に出世した」

「しかし、未だ独身なんだ」

「親としては、それが心配で仕方がない」

「それで・・・」

支店長は、そこまで言って珠理奈の顔を見てきた。


珠理奈は心中

「え・・・マジ?まさかここで?」

「顔も見ていないし」

と思ったけれど

「でも、将来有望な新宿支店長の御子息で」

「あの系列証券会社の課長、それもかなり若くて」

「美味しい話だ」

「会ってみて、どうしても嫌だったらで・・・」

とも、いろいろ考える。


支店長は、言葉を続けた。

「彼が今度支店に来る際でいいから」

「融資部の課長と同席してもらえないか」


珠理奈としては、支店長直々の業務指示とも考えた。

その裏に、思惑があったとしても、これなら断ることは困難だ。

「はい、了解したしました」

珠理奈は、支店長には深く頭を下げ、支店長室を退室したのである。


融資部の自分の席に戻ると、新宿支店での隣の席の玲奈がポツリ。

「珠理奈さん、気をつけたほうがいいよ」


珠理奈

「え?意味が?」


玲奈

「リスク満載ってこと」

「まあ、私が言えるのはそれだけ」

玲奈の表情は暗い。



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