第343話珠理奈の両天秤(2)

恒例の歓送迎会でも、珠理奈は圭とは、ほんの挨拶の一言二言のみ。

圭が「またそちらの支店に出向くこともありますので、その際には」と頭を下げると

珠理奈は「指摘は手加減してください」と冗談を返すと、

圭は、少しだけ頭を下げて、すっと別の社員の前に行ってしまう。


同僚行員の敦子が

「まあ、圭君の検査かあ・・・ど丁寧にやりそうだね」

「几帳面だし、それがいいんだけど」

文句を少し言いながら、圭の姿をずっと追っている。


珠理奈は

「へえ、敦子って圭君に興味あるの?」

少し意外だった。


敦子

「あら、知らなかったの?」

「圭君って、几帳面だけど、やさしいしさ」

「狙っている子が多いの」


珠理奈は、少し焦った。

「へえ・・・でも、異動だからいいや、滅多に会えないし」

「敦子はいいなあ、会えるから」

そう思ったけれど、敦子には言えなかった。


敦子が、突然

「ちょっと・・・」

と耳打ちしてきた。


珠理奈は

「え?何?」

と聞き返すと


敦子

「新宿支店長のこと」


珠理奈

「うん・・・何?」


敦子

「チラッと噂を聞いたけれど」


珠理奈

「うん・・・」


敦子

「何でも、御子息の結婚相手を探しているらしいよ」


珠理奈

「え?今時、親が?」

首を傾げるけれど


敦子

「うん、それと珠理奈が関係あるかどうかわからないけれど」

敦子の話は、そこまでだった。


珠理奈は帰り道で

「うーん・・・将来有望な都銀支店長の御子息かあ」

「でも、圭君も捨てがたい」

会ってもいない新宿支店長の御子息と、声もしっかりかけられない圭を両天秤にかけていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る