第341話リストのコンソレーション

十月も中旬になると夕暮れを早く感じる。

音楽室に楽譜を忘れたことを思い出して戻ってみるとピアノの音が聞こえてくる。

「誰だろう、誰もいないはずなのに」

聞こえてくるのはリストのコンソレーション。

「すごいな、情感たっぷり」

そんなことを思いながら、音楽室の少し重い扉を開けた。

そして驚いた。


「どうしたんですか?」

結婚するためにパリに行くって聞いた彼女がピアノを弾いている。


しかし彼女は何も答えない。

ボロボロ泣きながらコンソレーションを弾き続ける。


聞き出すことはやめた。

憧れの彼女を、これ以上泣かせくなかった。


忘れていた楽譜を手に取って、少し頭を下げて音楽室を出ようとした時


「待って」

涙声が聞こえた。


「はい」


「いろいろ、ごめん」


「え?」


「うるさい!一緒にいて!」


「わかりました、気が済むまで一緒します」


泣き崩れる彼女を支えた。

あるはずの指輪がないことに、気づいたのはその時だった。

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