第337話猫の物語(10)おとぎ草子から

ネズミ和尚は必死に訴える。


「近江の北部にある伊香郡木之本のお地蔵様を頼りに、左右にそびえる山々、

伊香山、奥谷山、本当に怖いけれど伊吹山、関ヶ原、醒ヶ井、摺張、佐和山、多賀の畑、鳥籠山、白山寺、上蒲生郡の山、ふせ山、布引山、観音寺、八幡山、鏡山、朝日山、甲賀の鷲の尾山、村々里里の三上山、信楽山、石山、粟津、松本、打出の浜、長良山、園城寺、延暦寺、坂本、堅田、比良小松、白鬚明神の周り、打下、今津、海津、塩津、志賀の浦、船便しだいで竹生島、長命寺、沖ノ島などへも押し渡し、野老や蕨を掘って食べて、一時でも命をつなごうと思うのです」

「それにしても、本当に心残りは、京の都の正月となれば、鏡餅、花びら餅、せんべい、あられ、かき餅、おこし米などを、春雨が降るような暇な日に思い切り食べて大騒ぎをしようと楽しみにしていたことです」

「それを、あの天敵の猫の奴らに追い立てられ、京の都から逃げるというのが、全く口惜しいのです」

「それでも、少々気晴らしになるのは、あの猫の奴らだって、犬という天敵がいて、あちこちで追い回され、辻や川端で倒れ伏し、雨や泥で汚れきってボロボロになっているのを見ることです、これも因果応報ですかな」


と言いながら、ネズミ族を引き連れ、四方八方に散っていく。

それでも、その散っていくネズミでとある公家とか門跡のお屋敷に、長らく巣を作っていたものが、三首のザレ歌を歌っている。


「ネズミを捕る猫の後ろには犬が控えている」

「つまり、我らネズミを狙うものだって、実は狙われている」

「猫の奴らだって生き通せない世の中だ、せめてこの世の思い出に、放し飼いの猫なんて、いなくなればいい」

そういいながら、鳴き声を上げていると、そこで聞き耳を立てている猫がたくさん。

その眼光は、本当に怖ろしい。

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