第336話猫の物語(9)おとぎ草子から

その聖職者は、一旦夢は覚めたものの、明け方にまた眠くなってしまった。

それで、ウトウトしていると、以前出てきたネズミ和尚が夢に現れた。

そしてそのネズミ和尚は

「とにもかくにも、このままでは、どうにもなりません」

「京都の街中で耐え続けることは無理です」

「そういうことなので、上京と下京のネズミがそれぞれ連絡を取り合い、会議をすることになりました」

「西陣あたりのネズミは船岡山のすそ、小川あたりのネズミは上御霊神社の藪」

「立売組は相国寺の藪、聚楽組は北野神社の森」

「下京組は、六角堂に中に集まって相談です」

「まあ、その中で、賢いネズミの意見は、たいてい同じようなもの、つまりこのままでは、死を待つばかり、どうすれば、その死までの時間を伸ばせるのか」

「それで相談をしたのですが、その議論としては」


「例の法律が定められて、既に五十日、その間魚の骨を何も口にすることがなく、油揚げや焼き鳥の匂いもかがず、このまま猫の奴らに会わなくても、餓死するだけだ」

「最近聞いた話だと、近江国で検地があったそうだ、それでそこの農民たちが、知恵を働かせて少しでも有利にしようとして、稲を刈らないらしい」

「それだから、さっそく冬の間に近江国まで出向いて稲の下に妻子を潜ませようというではないか」

と、近江への避難計画があることを語り始めたのである。

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