第334話猫の物語(7)おとぎ草子から

聖職者の次の夜の夢には、トラ猫が現れた。

そのトラ猫が神妙な顔で話しだした。

「あなた様のような聖職者だから、まさにネズミ根性そのものですな、あのネズミ和尚があなた様の夢に出てきて、様々グチを言ったのでしょう」

「そういうことするだろうと、教えてくれる奴がおりましてな」

「ですがね、そもそも、あのネズミって奴らは、性根が腐っていることが、甚だしいと思うんですよ」

「あなた様が、御慈悲をお与えになっても同じです」

「すぐに、そんな御慈悲は忘れて、すぐに物を引き込んでカジリまくるに決まっていますから、信用されてはいけません」


「さてね、私たち猫族の流れをお話しておきたいんです」

「だいたいの話ですが、お聞きになってください」

「ただ、こんなことを言うと、ネズミの奴らと張り合っているかのように思われるかもしれませんね」

「それでもね、そもそも、私たち猫族のことをお知りにならないと、それはよくない」

「軽く見られては困りますので」

と、トラ猫はうずくまって、しっかりと猫背。

その大きな目も、怒り目の様子。


「そもそも、私たち猫族と言えば、天竺や唐土で恐怖の獣とされている虎の子孫なのです」

「ただね、この日本は、国が小さい」

「だから、国土の大きさに合わせて、猫とした渡来したのです」

「それだから、日本には虎がいないんです」

「醍醐天皇の御代から御寵愛を賜り、柏の木のもとや、お部屋の下簾の内にて、住んでいたのです」

「白河天皇の御代からは、綱もつけられ、天皇のお側にいるようになったのです」


「ただ、それからが大変、綱が困りました」

「何しろ目と鼻の先を、あの憎らしいネズミがうろついても、綱のせいで動けません」

「気ばかりが焦って、飛びかかれないのです」

「湯や水が飲みたくて、鳴き声をあげても、気づいてもらえない」

「飲みたいと言うのに、鳴き声がうるさいと言われて、頭をコンコンと叩かれ、痛い思いをしてあきらめるしかありません」

「言葉で話したくても、私たち猫族はインドの言葉なので、日本人には通じない」

「結局、綱に繋がれたまま、哀れにも死んでしまっていたのです」


「それを、悟りを開いたお方の御慈悲は、なんと幅広いことでしょうか」

「どんな家でも月は公平に照らす、その言葉通りに、私たち猫族にまでご慈悲をいただいた」

「うっとおしい綱をほどき、苦しみから、私たち猫族を解放していただきました」

「本当にありがたい、今の帝の御代が何百年も続きますように」

と、その喉をゴロゴロと鳴らして、訴えている。

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