第324話民部大夫頼清の家の女子の話(4)今昔物語

御許は、本当に不安なので

「それでは、今すぐにでも、例の家(来た場所)に戻って子供の様子を見させてください」とお願いをすると、ご主人の頼清様は、たくさんの人をつけてくださいました。

御許が、例の家があった場所に戻ると、その家はありません。

草が高く生い茂った広い野原になっています。

御許は、本当に胸が締め付けられる思いで、大急ぎで子供を探して歩くと、荻やススキの茂った中から、子供の泣き声が聞こえてきました。

母は、本当に安心して喜び、泣いていた子供を抱き上げ、もとの木幡にもどり、頼清様に報告をすると

頼清様は

「本当に作り話のようで、信じられない話だ」と言い

同僚たちも

「まさか、そんなこと」と、なかなか納得しないのです。


しかし、母親としては、どんな事情があろうとも、幼い我が子を野原に置き去りにしたりするものだろうか。

おそらく狐のしわざなのだと思う。

人ではなく狐にさらわれたから、子供が無事に戻ったのではと、人々は御許に仔細を尋ねて、様々話をしたとのことである。


                                                                         (完)


○狐は魔性の動物と考えられていた。

○主人公の御許自身は、一体何に騙されたのか、それでいて最後は救われる。

○子供を不用意に他人に預けたりするものではない、その意味の教訓話なのだと思う。

○古代から「神隠し」と称して、子供の誘拐は多かったと言われている。

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