第321話民部大夫頼清の家の女子の話(1)今昔物語

今となっては昔のお話にございます。


民部大夫の頼清様というお方がおられました。

長年、賀茂斎院のお世話係を勤めておられたのですが、とある事情がありまして、斎院からお暇をいただいてしまいました。

その間は、宇治の木幡に頼清様ご自身の荘園がありましたので、そこで謹慎をすることになったのです。


さて、その頼清様のが長年使っている下女で、参川の御許おもとという女がおりました。

その御許自身は、京の中に実家があったので、ご主人の頼清様が木幡に謹慎となったことから、暇になってしまい、しばらくは実家住まいをしておりました。


ところが、頼清様のところから舎人男が使いがやってきました。

その使いが言うのには

「頼清様に急用ができたので、すぐに参上してほしい」

「頼清様は今まで木幡の住んでいたけれど、特別の用事があり、昨日出発されて、山城にお移りになった、だからその山城にすぐに出向いてほしい」

というものだった。


御許には、五歳の子がいた。

しかし実家に置き去りにすることもできず、その子を抱き上げて、早速出発することになった。


※民部大夫:民部省(一般民政を統括、戸籍・賦役・田地を司る)の職で五位相当の官位。

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