第318話怖ろしい受付嬢(11)

真顔で怖ろしいほどの目線で

「人を好きになったことがありますか」と聞かれて、どう答えていいのか、さっぱりわからない。

そもそも、今いるところは職場であるし、男女関係とか恋愛関係を考える場所ではない。

そう思ったので、思った通りに

「ここは職場です、そういう個人的なことを話すべきではないと思います」

と、ようやく答えた。

それに、学問一筋で女性には無粋なタイプを自負している。

多少はつきあった女性はいたけれど、いつの間にか雲散霧消だ。

心に残っていない以上、「人を好きになった」という経験には乏しいのだと思う。


彼女は、その顔を曇らせている。


「うん、気が向いたら、社外で」

とだけ、答えて、いつもの退社で、歩き始めた。


すると彼女は一緒に歩きながら

「先生、これからご都合はありますか」

と、またしても真顔で聞いてくる。


「ああ、今日は金曜日で家に帰るだけです」

「明日は授業もありませんし、あとはアパートで寝るだけです」

ここでも、素直に答えた。


彼女は、少しだけ顔をゆるませた。

そして

「もし、イギリス風のビールとかパブみたいな場所があれば、教えてほしいのですけれど」

そんなことを言ってきた。


「うーん・・・そうだねえ・・・」

そう言いながら、頭の中でいろいろ店を考える。

まあ、イギリスに進出するのだから、そういうビールとかパブの文化を知っておくのも、仕事の一つかなあとも思う。


「わかりました」

と答えて、数軒の店と場所をメモし、彼女に渡す。

すると、彼女は、また顔を曇らせる。


「あの・・・やはり場所だけじゃなくて・・・」


おいおい・・・と思ったけれど、付き合わないと、また難しい話になりそうな雰囲気になっている。


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