第315話怖ろしい受付嬢(8)

超一流企業の会長理事、社長理事、専務理事が一様に彼女の名前で顔を曇らせるのだから、何かがあった、それも彼女にとってよからぬことがあったのだと判断した。


それでも専務理事が話しだす。

「はい、昨日の先生のご訪問の際のビデオを、私達三人で確認をいたしました」

「本当に誠に失礼極まる態度、それにあってはならないミスもある」

「わざわざお呼びした先生には、本当に申し訳ないということになり」

専務理事は、一旦会長理事と社長理事の頷く顔を見て

「彼女には懲戒処分、今は自宅謹慎を命じております」

「当分の間、出勤停止です」

「その後は、接客業務のない部署に配置転換をします」


その話を聞いて、さすがに厳しい企業と思う。

その厳しさがあったから、ここまでの一流企業となったと理解する。

しかし、その処分が自分が発端なのが、どうにも気にかかる。

ほとんど「仏心」を持つ性格ではないけれど、自分自身も「研究者であり、教育者」の端くれでもある。


専務理事に尋ねてみる。

「私の時の接客は別にして、他の来客にはどうだったのですか」


専務理事は

「はい、几帳面か、几帳面すぎるほどの仕事ぶりでした」

「ある意味、杓子定規で、融通がきかないところがあります」

「仕事そのものは、丁寧です」

社長理事も会長理事も、専務理事の評価に頷く。


ほぼ、自分の彼女に対する評価と同じだった。


「わかりました、御社の内部統制にも属しますので、これ以上はコメントもしづらいのですが」

自分としては、これ以上コメントをすることをためらったけれど、どうにも彼女の涙顔が目に浮かんできてしまった。


そして

「もう一度、彼女とゆっくり話をしてみたいのですが」

「彼女にも、心の傷を負わせたままでは・・・」

自分でも「仏すぎるかな」と思ったけれど、話してしまった。


目の前の三人のお偉方は、顔を見合わせている。


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