第314話怖ろしい受付嬢(7)

さすが超一流企業が差し向けてきた「お迎えの車」である。

高そうなベンツで、車に乗り込んだ瞬間から贅沢感が漂う。

運転手に

「これからどちらへ」

と尋ねると、「日比谷の帝国ホテル」とのこと。

そこでランチとなれば、貧乏学者としては、滅多にできない幸運になる。

ホテルに着くと、専務理事が正面入口でお出迎え。

専務理事

「いや、突然のご招待でしたが、ご承諾なされ、ありがとうございます」

「また、本当に申し訳ないことの数々」


「いや、もはや気にしてはいませんので」とだけ答え、ランチ場所となる個室に入った。

その個室には、既に社長理事と会長理事が着席している。


そして席につくと

社長理事

「また突然お招きをしまして」と頭を下げる。

会長理事も

「本当に社員の不始末にも関わらず、あれほどの貴重な情報をいただき」

と頭を下げられてしまった。


「ああ・・・いえいえ・・・気にはしていませんので」

「私の情報がお役に立って良かったです」

こんな偉い人たちに頭を下げられると、かえって恐縮してしまう。


食事は、和食、懐石料理風。

そうは言っても、貧乏学者なので、食べるだけ、確かに美味しいけれど。

食事を進ませながら、少々酒を酌み交わす。


専務理事が途中から話があるようだ。

おもむろに、話を切り出した。

専務理事

「誠に忙しいとは存じますが、できれば先日の資料を役員会で取り上げても問題はないでしょうか」


自分としては、全く異存も問題は無い旨を伝えると


専務理事

「ご予定がつけば、役員会でのご説明まで」と言ってくる。


「はい、説明程度なら、あくまでも当方は授業時間以外なら大丈夫です」と答えると


専務理事

「重ね重ね助かります」とホッとした様子。

確かに役員会で説明するとなると、専門的な話も渡した資料には載せてあるので、学者以外では、困難だと思う。


社長理事が会長理事を少し見ると、会長理事が頷く。

社長理事

「先生には、無期限の特別入館証をお渡しします」

「これで、受付でのトラブルは全くありません」

と、「特別入館証」のカードを手渡された。


少し疑問があった。

「無期限とは・・・」尋ねると


会長理事

「弊社の特別アドバイザーをお願いしたいと思っています」

強く重い言葉が飛び出してきた。


大学の教員としても、非常勤ならばアドバイザーぐらいは問題がない。

「わかりました。都合のつく限りですが」と答えると、会長理事、社長理事、専務理事がホッとした様子。


それでも気になることがあった。

「ところで、受付の彼女は・・・」

それを口に出した途端、目の前の三人の顔が曇ってしまった。

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