第313話怖ろしい受付嬢(6)

連絡もなく我がアパート前に来て、帰りを待ち続けられても、自分としてはかなり迷惑に属する。

結局、スマホからタクシーを呼び、大学でもらったタクシーチケットを運転手に渡し、受付嬢を駅まで送らせた。


彼女を送り出してから、いろいろ考える。

「結局、杓子定規で不器用なタイプなのか」

「感情が先走るのかもしれない、連絡もなくアパートの前まで来るなんて」

そう思って、コンビニで買ったおにぎりを二つ食べ、後は翌日の授業の準備をして、眠った。


翌日、午前中の授業が終わった後、スマホが突然光った。

相手は、例の専務理事。

「すみません、いろいろと、タクシーで送っていただいたそうで」

「それに、連絡もなく、突然押しかけたとか」

「重ね重ね、無礼をお詫びいたします」

さすが専務理事、事情は聴いたようだ。


「ああ、いえ、こちらも、授業の準備が忙しくて」

「それから、そんなお気を使わず」


専務理事は

「はい、こちらの内部事情ですが、彼女についてはあまりの問題行為なので、配置転換をいたしました」

「受付から外しました」


少し驚いた。

「私との一件が問題となるならば、こちらも心に残ってしまいます」

「今後、御社に出向く時に、心も痛むような気がします」

「私からは、何も気にしていないと、お伝え下さい」

ひどく叱られてしまった彼女ではあるけれど、可哀想になってしまった。

おそらく、昨日の自分との一件が社内でも、評判になっているのではないか。

そうなると、不器用な彼女のことだ、本当に悩むのだろうと思う。


専務理事は

「はい、ありがたいことです」

少し間をおいて

「今日の午後のご予定はどうですか」

と聞いてきた。


「はい、授業は午前で終わりましたので、特にございません」

と答えた。


専務理事

「それでは、こちらから御車を差し向けますので、お食事をご一緒にいかがでしょうか」

「社長理事と会長理事も、できればと申しております」


確かに予定はないけれど・・・まあ、いいか、食事ぐらいと思った。

「わかりました、それでは」

で、差し向けられる車を待つことにした。


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