第312話怖ろしい受付嬢(5)
我がアパートの前に立っていた「怖ろしい受付嬢」は、いったい何の用事があって、そこにいるのだろうと思ったけれど、特に自分自身が彼女に用事があるわけではない。
下手に声などかけて、また「不審者」扱いされても困る。
とにかく、我がアパート前で騒ぎを起こされるのは好ましくない。
会釈もせず通り過ぎ、アパートの玄関の前まで進んだ。
すると受付嬢が走り寄ってきた。
そして
「あの・・・本日は、誠に申し訳ありませんでした」
「私のとんでもない不始末で、失礼をしてしまいました」
震える声で謝罪してくる。
そんなことを今言われても、こちらでは困る。
「あの・・・特に気にしてはいませんので」
「もう、済んだ話として」
「ここに来られた理由は問いません」
「夜も遅くなります、明日のお仕事に差し支えないようにお帰りください」
と言うけれど、彼女は頭を下げたまま。
また、ここで困った。
とても、この彼女をこのままにはしておけないと思う。
我がアパートの雑然とした部屋に入れるのは、本当に困る。
何しろ、独身だし、掃除も確かに不徹底。
とても、若い娘を入れることは倫理的は当然、物理的にも無理。
「疲れるなあ」と思いつつ
「部屋に入ってもらうことは、さすがにできませんので」
「謝罪のお気持ちはわかりました」
「駅まで送ります」
そう言うと、少しホッとした様子。
そして受付嬢
「せめてお食事だけでもと」
そんなことを言われても
「おいおい・・・疲れている、こっちは」
で、ためらっている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます