第308話怖ろしい受付嬢(1)

某超一流企業の専務理事から、「是非、お話をお聞きしたい」との連絡があり、打ち合わせた時間より10分前に、その企業の大きなビルの前に立った。

一介のしがない若年の英文学者としては、そのまま玄関に足を運ぶにもためらってしまう立派さに見える。

それでも、いつもよりは、シャンとしたジャケットを着込み、髪の毛もいつもよりは整えた。

靴は、新しく買った、まだ固くて歩くにも痛い。

それでも、玄関に入っていく人たちを見ると、全て立派なスーツ姿、髪の毛もバッチリ決めて、さすが一流会社のサラリーマンだ。

しかし、いつまでも、ここでためらっているわけにはいかない。

「素晴らしい論文でした、あなたのお話を、英国進出の参考にさせていただきたい」との、専務理事の言葉を違えるわけにはいかない。


少々震えながら、ビルに入った。

ビルの豪華な内装に戸惑いながら、正面に座っている受付嬢の前に進む。

その受付嬢に近づくと、「立派なスーツのサラリーマンが数人」、既に並んでいる。

どうやら順番待ちのようだ。

約束の時間の5分前、少し焦る。


それでも、ようやく受付嬢の前に立った。

約束の時間3分前だ。


「あの、専務理事様から・・・」

と言う前である。

いきなり、叱られた。

「どうして入ってきたんですか!」

「あなたのような人が入ってこられる会社ではありません!」

「とにかくそんなラフな格好では困ります」

「早くお引き取りください」

「そうしないと、警備員を呼びます!」

受付嬢はおよそ、二十二、三歳。

本当に怖い顔をしている。


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